孤立と孤独とは、一人でいる時の精神状態に違いがある。孤立の場合は、自己防衛因子である理想的自己が活性化し、孤独の場合は、自己制御因子である誇大的自己が活性化する。一人でいて、孤独が孤立に移行することはあるが、孤立から孤独に移行することはない。それは、情動系神経回路機能網のあり方から明らかである。たとえば、ある人がある状況で孤独を楽しんでいたとしよう。そのうちに、その楽しみは失せ、だんだん心細い気持ちになり、今度はその気持ちを払拭するために、何かゲームなどをする。こうした一連の精神力動を刺激伝達経路で示すと、誇大的自己→弱い自己→理想的自己である。これに対して、孤立した精神状態から孤独を取り戻すためには、理想的自己→誇大的対象→弱い対象→誇大的自己という刺激伝達が必要になる。この刺激伝達経路は、巻き込み拘束(お節介または利他主義)の精神力動であるから、この経路を活性化するためには、他者が必要になる。つまり孤立は孤独に移行しない。

  孤立はひきこもりであり、ひきこもりの精神力動についてはすでに紹介している。これに対して、一人でいることを積極的に楽しもうとする孤独については、ウィニコットに「一人でいられる能力」という論文がある。たいへん興味深い論文であり、私も気に入っている論文のひとつである。ここでは、私の考えを少しだけ付け加えることにする。たとえば「ちょっと、考え事をしたい」と思って、一人になる場合がある。これもまた孤独である。積極的に一人になろうとする場合は、すでに誇大的自己が活性化していて、何らかの作業をしたいと思ったり、あるいは好みのスタイルでボーとしていたいと思ったりする。さらには、すでに活性化していた誇大的自己の勢いが弱まってきて、その回復を図ろうとして一人になる場合もある。作業をしたり、寛いでいたりする時の孤独はありふれているので説明は要しないが、問題は誇大的自己の勢いが減少してきている場合である。むろん、この場合は情動制御の回復を取り戻そうとしているが、その際に重要なことは、自分にとって有意義な他者の主体性を蘇らせることができるかどうかである。つまり、理想的対象、謝罪的対象、反撃的対象の活性化が生ずれば、孤独を利用した目的は達成したことになる。いずれの場合においても、目的が達成すれば、誇大的自己から葛藤外領域に抜けて、実際の対人関係に戻る。

 

          新しい心の分析教室:様々な精神医学(精神分析)用語(Ⅰ)

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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