仏陀と精神分析統合理論

 仏陀とのつき合いは古い。幼い頃は仏堂の前で寝、もの心がついた頃には信仰の世界にいた。しかし、その後、私は信仰を捨てた。そのプロセスこそ精神分析統合理論である。精神分析統合理論では「さとり」に到るまでの方法論を「科学的に」記載しておいた。すでに紹介した「不二の法則」は、仏陀が発見した真理を精神分析統合理論のために修正したものである。
 仏陀の教えと私のそれとは大きく異なっている。仏陀は身体的にも精神的にも禁欲を徹底させた。おそらく仏陀自身はしっかりとした情動制御を身に着けていたために、徹底した禁欲によって情動系のもたらす影響を片付けてしまえると考えたのであろう。しかし我々の進化のあり方を考えてみても、意識は不快を解消するために発生してきているし、知覚系や思考系はそれを解消するための道具に過ぎない。たとえ知覚系や思考系に関して、不二の法則を獲得することができても、それが情動系に関して成立しなければ何の役にも立たない。その点、精神分析統合理論の中心にある「情動制御理論」はそうした仏陀の教えの不備を十分に補足している。


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フロイトと精神分析統合理論

 我々の感情は癌のように転移する。癌の転移は致命的であるが、感情転移という発見は我々に「心の科学」という方法論を授けた。転移を通して心の治療が可能になったという事実だけで、フロイトの業績は誰よりも優れている。しかし、その転移をめぐって展開されたフロイトの考えは、もはや時代遅れである。フロイトの考えは多くの人を巻き込んだが、その後の研究の中で転移の発見に相当する成果はない。
 ところで、フロイトの構造論と精神分析統合理論の構造論の折り合いが重要である。「エス、自我、超自我」と「不快因子、防衛因子、制御因子」の間には微妙な相違がある。精神分析統合理論の中では、これらを構成する要素の源について吟味しておいたが、それを正しく理解する必要がある。その中で最も重要な点は「許し」である。フロイト理論には許しがないので、たとえば「死の本能」とか「処罰欲求」といった概念が出てくる。いわゆる「自傷他害」の精神力動をこうした概念で説明するよりは、むしろ許しという制御システムの欠乏という風に説明し直すことによって、具体的な治療戦略を引き出すことが重要である。


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仏陀とフロイトをつなぐ精神分析統合理論

 はたして、仏陀とフロイトをつなぐことができるだろうか?つまり、不二の法則と精神病をつなぐことができるだろうか?ここでは、わかりやすく図を用いて説明しよう。

         不二の法則  ⇔     ?
                     ↓↑
            ?   ⇔   感情転移

 図の中には、不二の法則と感情転移が、それぞれ孤立して存在している。ところが、二つの?に言葉を入れると、両矢印の因果関係でもって、すべてがつながる。さて、それは何でしょうと言って、クイズにしてもよいのだが、いつ答えが解けるかわからないので、ここでその答えを作っておく。それは以下のようである。
           
          不二の法則  ⇔  情動制御(精神構造=人格構造)
                      ↓↑
            精神病  ⇔  感情転移

 不二の法則とは、静かな安らぎの境地、つまり、さとりの境地を支える心の原理であり、それは情動制御システムの中にある不快−制御系の機能によって培われる。また、感情転移は情動制御システムの中にある不快−防衛系の機能によって発生する。したがって、仏陀(不二の法則)とフロイト(感情転移)は、新田(情動制御)によってつながり、仏陀(不二の法則)と新田(精神病)は、フロイト(感情転移)と、新田(情動制御)を経由してつながる。
 さとり(不二の法則)と精神病、情動制御と感情転移は、それぞれ大河の対岸に位置している。情動制御と感情転移の間に橋が架かっているので、さとりから精神病へ行く場合であっても、精神病からさとりへ行く場合であっても、U字形のプロセスを歩まなければならない。この簡略した図によって、精神分析統合理論が仏陀とフロイトをつなぐ重要な役割を果たしていることがよく理解されるに違いない。


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クライン(対象関係論)と精神分析統合理論

 M. クラインは対象関係論を展開した。情動系に関する構造を見ると、人の心は自己を担当するニューロンと、対象を担当するニューロンが交錯して存在している。つまり自己と対象は切っても切り離せない関係にあるから、対象関係論だけでは精神分析自体が成立しない。精神科疾患群の形成メカニズムを語る上において、クライン理論はほとんど盲目的であるから今日の精神医学には通用しない。
 様々な精神力動を理解する上において、クラインには幾つかの有力な概念がある。その中でも「分裂」や「投影性同一視」それに「分裂的・妄想的態勢」および「抑鬱的態勢」は有名である。精神分析統合理論を書く時点において、これらの概念を採用するかどうかずいぶん迷ったが、最終的には分裂と投影性同一視を私の理論用に修正した。クライン学派にとっては不愉快だろうが、新たな造語によって読者を混乱させるよりはマシだろうから仕方がない。ただし、分裂的・妄想的態勢および抑鬱的態勢に関してはあまりに臨床とかけ離れるため採用しなかった。ちなみに、O. カーンバーグの境界性人格構造論は、M. マーラーの発達論とクライン理論の合成版である。


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コフート(自己心理学)と精神分析統合理論

 古典的神経症に対峙する一群の疾患群として、H. コフートは自己愛神経症の内容を描写した。精神分析統合理論「第一部情動制御理論」では「誇大的自己に到る二つのルート」について記載したが、古典的神経症を斥けなくても自己愛神経症の存続は認められる。したがって、コフートの業績は残ることになる。
 しかし、コフートは自分でも自分の理論の広さ、大きさを正確に見積もれなかったようだ。分相応を知らず大風呂敷を広げたが、たとえば統合失調質人格障害の根治療法というレベルになると、もはやコフート理論は通用しない。「理想化」という概念の使用に関して、それを防衛的なものとして捉えるのではなく、むしろ成長可能なものであるとして捉えた点は立派である。しかし「鏡転移」は曲者である。「こだま」技法は成長を促進する上で有効であるが、それ自体、成長をもたらすものではない。「精神分析統合理論」第八章、および「ダイジェスト版・精神分析統合理論」第九章、人格傾向の中で、期待の精神力動に関して紹介しているが、期待に関する正確な描写を行なう際には、コフート理論には存在しない「弱い対象」としての機能を発見しなければならない。


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ウィニコット(対象関係論独立学派)と精神分析統合理論

 D. ウィニコットと言えば、移行対象である。邦訳されているウィニコットの論文はどれも読みやすく親しみやすい。彼の柔和な臨床体験が伝わってくるので人気も高い。私がウィニコットに敬意を表したいのは、移行対象に関する執拗な見解を展開していないところである。もしウィニコットがそうした見解をダラダラと述べていれば、クラインやコフートと同じように扱っていたであろう。しかし、そうしなくてよいから楽である。おかげで私の方は自由に移行対象を操れる。
 私も幼い頃は「ワンチャン」のぬいぐるみを可愛がったが、そんな体験に固執しても、出てくるものは文学であり精神分析ではない。移行対象(移行現象)に関する精神分析を展開しようと思ったのは、むろん必要に迫られたからであるが、その場合にはウィニコットに申し訳が立つように、徹底して分析し尽そうと思った。そこで、まず自己および対象解離を皮切りに、「不快因子同士の連動性によって生ずる精神力動」について解明し、次に「移行対象の有用性」について吟味し、移行現象が基になって生じてくる様々な病的現象の解明を行なった。解明してみると、それは多岐にわたり、しかも難解であった。しかし、これで申し訳は立ったと思っている。


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発達論と精神分析統合理論

、 フロイトは様々な視点から心を理解するためのモデルを提供した。構造論、発生論、経済論、それに発達論などである。その中でも発達論は「乳幼児研究」を中心として、今日でも様々な実績を上げている領域である。親子関係を中心とした詳細な観察とその経過に関する理解は、我々の心がどのように成長するのかという疑問に答えてくれるだろう。しかし、私は精神分析統合理論を作る段階において、この発達論を放棄した。
 発達論をイメージすると、様々な発達課題が時間の推移と共に上昇曲線を描き、ある一定の成長が得られればプラトー曲線に変化する。もっとも、脳内では様々な領域で「側枝」が伸び、脳の構造そのものを変えていくプロセスは進行しているのだろうが、個々の養育環境の影響によって、プラトー曲線に高低が出てくるのも否めない。そうした高低の横断面を正確に同定する作業こそ、逆に精神発達上、何が重要な指標になるかという解明に貢献する。すでに精神構造(人格構造)の基本型(Ⅰ〜Ⅳ型)について紹介したが、その中核にあるものは「救いの環」と「許しの環」である。これらの変遷を明らかにする作業は精神構造に関するスクリーニング法の確立につながる。


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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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