移行現象と移行対象は、ウィニコットの概念である。それぞれどういう概念か、極めて単純に説明すると、たとえば「指しゃぶり」は移行現象であり、「ぬいぐるみ」は移行対象である。詳しい点については、直接ウィニコットを勉強してもらいたい。その他にも、ウィニコットには「抱っこ」や「ほぼよい母親」、そして「偽りの自己」などの概念がある。いずれの概念も、ウィニコットの柔和な臨床感覚と臨床体験から引き出されたものである。それゆえ、ウィニコットは親しみやすく、日本でもウィニコットを信奉する研究者が多い。私もまたウィニコットには違和感を覚えないが、いずれの概念も曖昧であるという印象は拭えず、詳細な治療経過や治療技法について議論する際に、はたして間に合うかどうか疑問が残る。
精神分析統合理論を作る際に、ウィニコットを参考にしたわけではないが、精神分析統合理論に必要な概念を作り出し、それらを臨床的に検証していくプロセスの中において、私は幾度か、上記したようなウィニコットの概念を思い出していた。そして、それらの概念のことごとくが、精神分析統合理論の中に含まれるということを認識していた。たとえば、情動系神経回路機能網の中の自己解離や対象解離、つまり「自己の断片化」や「対象の分身化」という概念である。ウィニコットはクラインの対象関係論などを参考にして自分の概念の位置付けを図ったが、私は自己解離や対象解離の概念を皮切りに、心の細やかな動きを観察し、攻撃系および脆弱系の閉鎖回路、前駆型閉鎖回路、逆向性前駆型閉鎖回路を同定し、さらにそこから様々な人格傾向や症状形成の解明を行なった。それらは、ひとえに治療理論を生み出したかったからである。
新しい心の分析教室:様々な精神医学(精神分析)用語(Ⅱ)
精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。