情動認知によって作り出される葛藤と人格の精神分析

 一般に、情動認知という用語を用いる場合、情動認識(情動メタ認知)を含めてよいと思うが、正確には(狭義の意味では)情動認知は不快ー防衛系に、情動認識(情動メタ認知)は不快ー制御系に見られると区別した方がよい。ここでは、むしろ正確な(狭義の)意味を前提に議論を進める。その理由の最も重要な点は、現実検討能力の有無、つまり、病識の有無が、この区別によって正確に表現され得るからである。もし心が健康であれば、現実検討能力も、病識もある。これに対して、もし心が病的であれば、現実検討能力も、病識もない。むろん、これらの有無は両極端の場合だけ存在するわけではなく、葛藤や人格を課題にする場合は、いつも不快ー防衛系と不快ー制御系が混ざっているので、その時々の精神状態に応じて、現実検討能力や病識が、あったりなかったりする。

 そこで、今回は葛藤(の構造)を取り上げることによって、情動と精神分析が、いかに強いつながりを有しているかという点を強調してみたいと思う。葛藤は全部で四個存在するが、一個ずつ見ていくことにしよう。(下記の葛藤の構造である「a⇔b→c」のうち、「a⇔b」は情動認知、「b→c」は情動認識、つまりメタ認知を意味する。)

 第一葛藤は「処罰的自己⇔悪い自己→謝罪的対象」である。これを、わかりやすく情動特性に置き換えると、「殺意⇔憎しみ→謝罪」になる。つまり、憎しみが募った時、殺意が湧くようでは一向に埒が明かないが、憎しみが募った時、相手の謝罪が殺意を消してくれるという意味である。

 第二葛藤は「処罰的対象⇔悪い対象→反撃的自己」である。これを、わかりやすく情動特性に置き換えると、「恐怖⇔憎しみ→反撃」になる。つまり、憎しみが募った時、恐怖が湧くようでは、一向に埒が明かないが、憎しみが募った時、自己の反撃が恐怖を消してくれるという意味である。

 第三葛藤は「誇大的対象⇔弱い対象→誇大的自己」である。これを、わかりやすく情動特性に置き換えると、「万能⇔脆さ→自信」になる。つまり、相手が脆さを隠して万能になるようでは、一向に埒が明かないが、相手の脆さを自分が支持すると、自分に自信が湧くという意味である。

 第四葛藤は「理想的自己⇔弱い自己→理想的対象」である。これを、わかりやすく情動特性に置き換えると、「完璧⇔脆さ→信頼」になる。つまり、自分の脆さを隠して完璧になるようでは、一向に埒が明かないが、自分の脆さを相手が支持してくれると、相手に対する信頼が湧くという意味である。

 このような葛藤の組み合わせによって、今度は(7種類14個の情動因子によって構成される情動制御システム、つまり人格構造を構築し、)様々な人格が形成される。葛藤における情動と(精神分析における感情転移の中に示される)関係性とは密接な関係にあることが、よく理解されたと思う。優れた精神分析家ほど、情動の特性やその動向、そしてそれにつれて発生する情動認知と情動認識(情動メタ認知)の理解に長けている。

 

 *「新しい心の分析教室:精神分析技法論」を参照

 

                     情動と精神分析

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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