明晰夢は意識ではない

 夢を見て、素朴に抱く疑問は二つある。ひとつは、夢を憶えているとは、どういうメカニズムによるものか?そして、もうひとつは、夢の中で「これは夢である」と思う自分には意識があるのかどうか?通常、多くの夢は(覚醒すると)忘れられてしまう。そのような夢の内容は、無意識、あるいは前意識に所属する、未だ十分に記憶されない(思考や体験の)内容として存在していると考えられる。これに対して、覚醒しても憶えている夢は、すでにある程度のまとまった内容を持っている夢、つまり、統合された情報の一齣だったり、あるいはもっと複数の連続した内容だったりするものである。(以前は、それらも忘れられてしまうような内容だったのだろうが、繰り返し、現実的な体験をしているうちに、前意識において、ある程度のネット形成が行なわれ、それがまとまった内容として夢に出現したと考えられる。)

 さらに、そうした夢を見ている自分には意識があるのではないか?確かに、それは意識と間違えられやすい心的現象である。しかし、それは意識の機能ではない。それでは何か?それは前意識に存在する「入れ子」構造に由来する。つまり「入れ子」構造の再帰性の典型が明晰夢である。明晰夢になりやすいパターンは「無意識から発生した夢を見ている前意識の自分」や「前意識から発生した夢を見ている前意識の自分」である。無意識から前意識に伝達される内容は「不快ー防衛系」に由来する、たとえば願望や恐怖などである。それらが前意識に伝達されると、その時、夢を見ている自分が活性化されると同時に、「不快ー制御系」に由来する内容や、意志の発動機関である孤独型誇大的自己も活性化される。最もわかりやすい例を挙げよう。これは願望である。パチンコをしたことのある人であれば、夢の中でもパチンコをしている光景が出現するだろう。リーチがかかった。その時、自分がパチンコをしていることに気づいていて、極めて意識的な状況が出現する。その気づきは、前意識に存在する入れ子構造に出現した何重もの理想的自己の仕業である。はたして、当たるかどうか? まれに見る夢であれば、なかなか当たることはない。しかし、繰り返しこのような夢を見ていれば、大当たりの夢になるはずだ。むろん、夢には自分の願望を充足させる意味がある。当たっても、外れても、この明晰夢を見た後で、目ざめる。そして、もうひとつは恐怖の夢である。恐怖がピークに達すれば、たいがい目ざめる。なぜならば、恐怖の夢に特徴的な(「不快―防衛系」の中の)「悪い対象−処罰的対象」を、意識が不活性化しようとするからである。そのメカニズムである。悪い対象が無意識から意識に侵入しようとすると、処罰的対象も無意識から前意識を経由して意識に侵入し、両刺激が意識領域で衝突する。(非意識ニューロンが意識ニューロンを賦活する。)すると、目ざめる。ところが、何らかの理由(たとえば心的外傷)によって、その衝突がなかなか発生しなければ、覚醒することができず、恐怖にうなされて、金縛りの状態に陥ったまま、その夢を見続けなければならない。処罰的対象の活性化に連動して、加虐型病的同一化や自責回路も賦活し、その結果、前意識に存在する入れ子構造に何重もの処罰的自己や理想的自己は出現するものの、上記の「悪い対象ー処罰的対象」の結合が強いため、夢のそうした状況に気づきながら、覚醒できず、明晰夢を作り続ける事態が発生する。むろん、健康な人はこのような明晰夢に陥ることなく目ざめるということを知っておくべきである。

 なお、「不快−防衛系」および「不快―制御系」によって構成される情動制御システムへの意識ニューロンの介在の仕方については、著書『次世代の精神分析統合理論』の中の「人工精神AM(artificial mind)創発理論」のところで詳述している。


               新しい心の分析教室:夢の原理

お申し込みはこちら

精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

お気軽にお問合せください

img33739.gif
linkbanner web search japan.gif