次世代の精神分析統合理論の紹介

 約20年間の著作活動の後、『精神分析統合理論』を出版したのは2007年であった。この書籍は800ページを超えるボリュームに膨れ上がり、作り上げた当初は、それまでに熟慮した、ほとんどすべての内容を書き切れたと思った。その中でも、ジグムンド・フロイトの第二局所論に代わる「情動制御理論」は前人未到の大著であると自負するところがあった。ところが、書き上げてからも、私の執筆は続いた。以降、数年後には『ダイジェスト版・精神分析統合理論』の日本語版と英語版を同時に出版し、さらに一、二年後、『続・精神分析統合理論』を書き上げた。その二作において、新しく追加した点は次の二つである。ひとつは、解離に関する新しい見解である。解離を防衛と対立して機能する心的概念(逆方向性の刺激伝達様式)として規定することにより、すべての精神現象のつながりを鮮明に描けるようになった。もうひとつは、フロイトの第一局所論を三層構造から円三分割構造に修正し、解離サイクルと防衛サイクルを同定した。この二つのサイクルは、お互い逆回りに回転する特徴があり、上記の情動制御理論にこの両サイクルを加えることによって、すべての精神現象を立体的に表現することができるようになった。こうした一連の精神分析統合理論によって、私は自分の理論は完成したと思った。その後、人工知能AI(artificial intelligence)を念頭に置いた知能革命と、それに続く精神文明など、それまであまり用いたことのない概念を駆使して、私なりに人類の未来を創造しようとした。その結晶が『精神分析統合理論:知能革命への道』である。もともとAIに関する素養がなかったため、AIのための理論になり得ているかどうか自信はなかったが、情動制御理論をAIに搭載することはできないか模索している。しかし、それでもなお、私の著作活動は終わらなかった。私に再びたいへんな真実が怒涛のように押し寄せたのである。

 一連の精神分析統合理論は、情動制御理論と精神現象生成理論の二部より構成されている。前者の情動制御理論については解説してきているので、それがどういう内容で構成されているか、だいたい見当はつくであろう。人間の心には、動物心性、つまり異常(病気)を作り出す「不快‐防衛系」と、人間固有の心性、つまり正常(健康)を作り出す「不快‐制御系」が存在する。実際にはそれらが混ざり合って、様々な精神現象が発生する。そのほとんどすべての精神現象について、それらが連動して活性化する様子を臨床的に観察し、その精神力動がどういう人格や疾患、それに症状などを作り出すか、解明してきた。そして、この情動制御理論がほぼ完璧に仕上がってきた時に、今度は精神現象生成理論に該当する様々な精神現象の仕組み、つまり自己や自意識(自我意識または自己意識)、それに意識の正体、さらには新しい言語の誕生と文脈の形成に関するアイディアが、何の抵抗もなく、自ずと湧いてきたのである。それを簡潔に述べると、情動制御システム(情動系神経回路機能網)の中の不快‐防衛系が意識の発生メカニズムを作り出す。(修正した第一局所論に基づき、)無意識からの刺激と前意識からの刺激が、意識野の中で(意識ニューロンによって)作り出される迂回路の中で収斂・衝突する。その後、意識ニューロンは有化刺激を選別し、ベクトル化する。すなわち、意識とは「選ぶための迂回路を進む船頭」である。また、不快‐防衛系、つまり(異常心理の原因となる)動物脳を超えて、正常な(健康な)心を形成する人間固有の不快‐制御系が、言語の発生メカニズムである。まず自己制御因子が(情動認知)言語を生み出し、次に言語が正常(健康)な心を作るための道具として機能し、さらに言語によって作られた正常(健康)な心が、さらなる言語の発達・成長を促す。(ただし、人間の心には、すでに不快‐防衛系が存在するので、習得された言語が異常心理をも作り出してしまう。)このような意識と言語の機能について、さらにわかりやすく言い直すと、意識とは、生存を維持するための状況判断能力であり、快・不快によって動機づけられている。また言語とは、精神を正常に維持するための現実検討能力であり、その本質もまた快・不快によって動機づけられている。

 極めて明瞭な精神現象生成理論を完成させ、今一度振り返ってみると、とにかくこの10年間で、情動制御理論を構成する基本概念、人格傾向、疾患形成、症状形成のいずれの領域も精緻な内容に仕上げ、それを契機としてフロイトの第一局所論を修正できたことが、意識の解明につながったと認識している。人の意識の構造と機能は、他の動物のそれに比べ、複雑な進化を遂げており、我々が無意識的に用いている脳機能としての精神力動、たとえば直観、予測や推理、再帰性などを、意識が作り出していることがはっきりしてきた。しかも、意識の発生メカニズムがわかってくると、それまで言語の機能として見積もられ、混同されてきた内容もはっきりし、言語獲得の本当の理由がわかってきた。つまり、言語の本質である自己理解と他者理解が連なって再帰性が出現するが、その再帰性は意識が作り出すものの、その原画としての「入れ子構造」は言語を用いる(不快‐制御系を中心とした)情動制御システムの中に存在し、それが正常(健康)な人間の心を作り出していることがはっきりした。

 現代の心と脳に関する研究の流れは、依然として「知覚‐運動」を原点とし、そこから発生する認知(概念)を中心とした認知科学であり、さらにそうした研究を拡大するために身体の重要性を主張し、その身体に関する研究の延長として、情動や意識、それに言語が扱えると考えている。しかし、他方、情動を原点として意識や言語について、その発生のメカニズムを中心とした最も肝心な部分を説明することができるので、すでにそれらを認識している私としては、いくら身体に関する研究を続けても、そこから情動や意識、それに言語に関する根源的な問題は解決しないと考えている。つまり、生命が精神を作る時には、「情動(快・不快)→意識→言語→人格」という順に発生し、発達する。ところが、人間が人工精神(artificial mind)を作る時には「言語→情動(快・不快)→人格→意識」という順に創発しなければならない。こうした点も含めて、本書はそれらすべてを扱っている。

 ただし、ここで、幾つかの断りを入れて置かなければならない。それは、本書の執筆の特徴である。話の進め方としては、情動認知、情動制御、自己、自意識(自我意識または自己意識)、意識、言語の獲得、感情言語(情動認知言語)、文脈形成、人工精神(AM)の創発という順で行なうが、はじめから随所において、一連の精神分析統合理論に出てくる専門用語を用いる。その時に、いちいちその用語について説明していると、たいへん冗長な内容になりかねないので、そうした精神現象に関する専門用語は、本書の後半において、参考資料としてまとめたので、随時、それを参照してもらいたい。今回は、今まで以上に推敲した内容になっているので、わかりやすいと思う。正直なところ、今まで私は読者を意識して(読者を念頭において)著述を行なってこなかった。この30年間、私は自分の得た真実を描写するだけの思いしか抱かなかった。もし読者を意識していれば、一連の精神分析統合理論は完成しなかったと思っている。だから、特に『精神分析統合理論』は難しい。(たった二、三行の文章であっても、それだけで幾つもの原著論文が書けるほどの内容がたくさん詰まっている。)いずれ、図抜けた才を持つ人間が私の著述を見つけ、注目するだろうという思いがあり、とにかく残しておくことに全力を傾けたのである。そして、今やその作業は完成した。だから、今回は、思いっきり、読者のための著述に徹底する。つまり、本書のための執筆は、私の利他行為(お節介)以外の何ものでもない。まず、いかにしてフロイトの二つの局所論を修正したのか、その根拠をわかり易く説明する。次に、私の扱う(心と脳の)膨大な領域のほとんどすべてを、周辺領域の研究、つまり社会脳や心の理論、感情心理学や進化心理学、脳科学(意識研究や感情脳科学)、それに言語学(認知言語学)などと、つなげる。現時点において、(私が調べ上げた)いかなる文献であろうとも、私以上に斬新で創造的な研究は存在しない。かねがね、私の研究に追いつくまでには100年は要するだろうと豪語していたことが、今まさに現実であるということがわかった。だから、議論の進め方はトップ・ダウン式で行なわざるを得ない。そして、まるでタコが凹凸の激しい岩場に自分の足をくっ付けるかのようにして、わかりやすくつなげる。これによって、他のいかなる研究者も近づけなかった深奥の領域で研究してきた私の思いを披露する。

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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