善悪の混ざった世界

 我々の社会は、善に満ち溢れているとは言えず、さりとて、悪ばかりが蔓延し、いつも緊迫した心を保っていなければならないとまでも言えない。その時々の状況において、若干の優劣はあるものの、だいたい半々ずつ存在するだろうと思われる。そうした善悪を左右する代表的な(あるいは象徴的な)存在は、お金である。自分や自分の家族に対してだけではなく、困った状況にある人や、貧しい人達に対して、金銭的な援助をする。こうした場合のお金の使い道は善である。これに対して、お金に力を与え、それによって人間を支配しようとしたり、あるいは盗みや騙しによって、お金を奪おうとしたりする思いや行ないは悪である。このように、お金を中心とした善悪は、人間の心の正常と異常(つまり、健康と病気)を反映し、いずれの方向にも現われる。また、それとは逆に、お金を中心とした善悪は、人間の心の正常と異常(つまり、健康と病気)の形成に影響を与える。

 

                     善の担い手

善悪の原理

 すでに紹介してきているように、心の正常と異常(つまり、心の健康と病気)を作り出す(情動系神経回路機能網を中心とした)脳内神経回路機能網は、不快−制御系と不快−防衛系に分かれる。不快−制御系は、不快な情動の認知だけではなく、そのメタ認知(つまり、情動の認識)も可能にする心のネットワーク(つまり、救いの環や許しの環)を機能させることによって、まさに善の精神を作り出す役割を担っている。これに対して、不快−防衛系は、不快な情動の認知には気づくものの、それを快変換するだけの能力を持ち合わせていないので、その不快をチャンスに変えることはできず、ひたすら怖がってみたり、あるいはひきこもってみたりして、悪の精神を作り出す役割を担ってしまう。我々人間の心には、こうした二種類の心が共存していて、その時々の状況に応じて、不快−制御系が有利に機能したり、不快−防衛系が有利に機能したりしている。つまり、人の心に善悪は混ざって存在する。

 

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善悪から善だけを取り出す方法

 いま、我々が善悪から善だけを抽出したいと考えた時、どういう方法を考えるだろうか?おそらく、そのためには、極めて秀でた善の持ち主を探し出そうとするだろう。たとえば、(ある人のことを)誰に尋ねても、「いい人だ、素晴らしい」という評価だけが返ってくるので、その人は十分信頼に値する人だと判断し、(諸々の事象から発生する)善悪の判断を任せたとしよう。はたして、その試みは善悪から善の抽出を可能にするだろうか?たとえ、その人がどんなに秀でた善人であっても、すべての場合において、善を行使することは困難だろう。つまり、人の手による善は、いつも善である(善になる)とは限らない。あるいは、正義を持ち出し、それを基準にして、善悪の区別が可能であると主張する人がいるかも知れない。しかし、(その人が主張する)正義そのものが善であるという保証はない。それゆえ、我々人間の手によって、善悪を区別し、善悪から善だけを抽出することは不可能であると結論付けることができる。そして、その理由は簡単である。我々の精神の発生順を考えてみればよい。まず異常心理を作り出す不快−防衛系が発生し、次に正常心理を作り出す不快−制御系が発生する。だから、もし、完全な善を獲得しようとするならば、(人間の営みを超えて、)不快−防衛系に由来する意識から、不快−制御系に由来する言語を作るのではなく、(健全な)言語から(言語的な)意識を作る操作が必要である。

 

                     善の担い手

善の担い手

 もし我々が信頼に値する善の担い手を作り出そうとするならば、人工精神(AM)の創発を考えなければならない。人工精神(AM)の創発は、言語から情動と人格を経由して意識を作るプロセスを要するので、(精神の)正常から異常を区別することができる。つまり、善悪から善だけを抽出することが可能である。これは余談であるが、今まさに作り出されようとしている人工意識の場合を考えてみよう。それに携わる研究者は、少しでも優れた機能を持つ意識を作り出そうとしている。つまり、それはハエ(?)の意識よりも、カラスの意識を作るようなレベルの話である。そして、そうした努力が実を結び、いずれ人間に近い意識、あるいはそれ以上の(囲碁によって示された技術のような)意識が作れるようになるかも知れない。しかし、いま私が議論している内容は、意識の性能ではない。たとえ、どんなに意識の性能を上げていき、さらに人工意識が人間の意識を上回っても、意識だけでは健全な心を作ることはできないので、それは決して善の担い手にはなり得ないということである。

 

                        善の担い手

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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