転移・抵抗・解釈という流れ

 精神分析とは何か?という最も基本的な問いに対して、すでに私は(このサイトの中で)無意識の意識化という答えを準備した。それでは、それは何を操作することによって行なわれるのか?むろん、治療は言葉を通じて行なわれるが、その言葉を通して、患者と治療者の間で、感情のやり取りが行なわれる。(それを「転移・逆転移」関係と呼ぶ。)どういう感情のやり取りか?治療を受ける患者には苦悩があり、その感情(言語)は不快な性質のものだから、それを聞いた治療者は、患者が発する不快な感情(言語)を理解し、その理解をベースにして発する治療者の感情(言語)が、患者によって快適に理解されるように工夫を施して提供する。その工夫こそ、精神分析技法論である。それでは、それはどのようにして、つまり、どのようなプロセスを経て成されるか?その答えが、まさにタイトルで示した「転移・抵抗・解釈」である。これらの手順を尽くすことによって、精神分析療法がなされる。

 

              基本的な精神分析技法:転移・抵抗・解釈

退行・転移・抵抗・解釈という流れ

 この転移・抵抗・解釈という流れは、どのようにして生ずるか?つまり、何が起源となって、一連のプロセスが生ずるのか?このように問われた場合、いきなり転移の説明からスタートせずに、治療構造の話をし、そこから転移が発生してくると説明する場合が多い。しかし、ここではもう少しわかりやすく、その転移を起こす原動力の話をする。精神分析には、(転移・抵抗・解釈の他に)もうひとつ有力な概念がある。それは退行である。この退行という概念を、全く素朴に(かつ我流に)説明すると、これは一種の「赤ん坊返り」を意味する。つまり、治療に訪れる患者の心性は、赤ん坊返りの状態であるが、(普段)それはベールに包まれて(隠れて)いる。その思いは、幼児に共有される情動であり、「甘え」や「ぐずり」を起こすような思いである。養育期において、甘え(依存の日本的表現)やぐずり(駄々をこねる)が十分に体験され、うまく対応できるようになっていれば、退行は生じず、以下のプロセスも生じない。しかし、手の掛からない「よい子」であれば、その体験の不足が生じている。

 

             基本的な精神分析技法:転移・抵抗・解釈

転移と転移の持つ意味

 転移には二通りの意味がある。ひとつは癌の転移であり、もうひとつは感情の転移である。癌の転移は致命的であるが、感情の転移は救命的である。この場合、大人になった現在の人間関係の中で、幼少時に体験した不快な思いを(無意識的に)再燃させるような特殊な関係を作り出し、それに心が捉われるようになる。しかも、それは相手の気持ちとあまり関係なく発生するので、相手には歓迎されるよりも、むしろ迷惑がられる場合が多い。こうした幼少時期に体験すべき感情を、現在の大人の生活に持ち込む場合、これを(感情)転移と言う。この転移が実社会の人間関係の中で「無構造」に存在すると、それは決して良い人間関係を育まない。そこで、このような関係を(精神分析的な)治療構造の中で収め、その中で解消していこうとする方法論が精神分析技法論である。転移を起こす感情はたくさんあるが、たとえば、上記の「甘え(依存)」は「しがみつき」に「ぐずり」は「催促」に発展しやすい。その他にも、様々な感情が転移を起こす。(対象不快因子や対象防衛因子が転移を起こす。)

 

             基本的な精神分析技法:転移・抵抗・解釈

抵抗と抵抗の持つ意味

 感情転移を(精神分析的な)治療構造の中に収め、それをうまく解消していくプロセスこそ精神分析療法である。この感情転移が(治療構造外において)日常的に発生すると、それは他者の迷惑になるが、これが治療構造の中に収められると、それはまるで幼少時期における両親という足枷を嵌められたかのような設定になるので、(本来の感情である)不快で、つらい性質なものが出現しやすくなる。(自己不快因子や自己防衛因子は、対象不快因子や対象防衛因子を賦活し、上記の転移を起こす。)そして、それは陰性治療反応と呼ばれる治療の抵抗として位置付けられるようになる。一般に、上記のしがみつきや催促がうまくいかず、そうした気持ちはさらに破壊的な心性に変わり、殺意と恐怖という雰囲気に変わってくる場合が多い。むろん、そればかりではない。注意を要するのは、いわゆる「陽性転移」と呼ばれるものである。たとえば、支配(支配・服従関係)を容認した上での依存や、その依存をベースにしての崇拝や信仰などの、いわゆる陽性転移が生ずる場合がある。実は、これらもまた立派な抵抗になる。

 

             基本的な精神分析技法:転移・抵抗・解釈

解釈と解釈の持つ意味

 治療的に感情転移を扱うということは、実践的にどのようにして治療抵抗を扱っていったらよいかというテーマに置き換わる。とりあえず、上記のように生じてきた「退行・転移・抵抗」がどういうプロセスを辿るか、患者も治療者もその変遷をよく理解するところから始めなければならない。そのためには、解釈に先立って、明確化や直面化といった治療技法を駆使して、問題点、つまり、未だかつて十分に体験されず、絶えず心を不快にしてきた中核的な問題点を探り当てなければならない。この時に、精神分析が提供するひとつのモデルが「エディプス・コンプレックス」である。問題解決の糸口には、患者に有益な言語的介入を提供することができるような、拠って立つことのできる理論、つまり精神分析理論が必要である。ただし、たとえ患者の問題解決の糸口が見つかって、それをテーマにしようとする場合であっても、現在では「解釈」と表現せず、むしろ言語的介入を行なうというような言い方をする場合が多い。なぜならば、「乳房」とか「ペニス」という性的用語を用いて、父母との関係のあり方を解釈するという、比喩性に富んだ古典的技法を使う人は少なくなったからである。

 

             基本的な精神分析技法:転移・抵抗・解釈

精神分析的根治療法の中で

 さて、まとめておきたい。すでにご存じの通り、私には精神分析統合理論の中核を成す情動制御理論がある。いま紹介した部分を私の理論に該当させると、それはほんの少しの掻い摘んだ部分についての説明という意味合いになってしまう。しかし、たとえそうであっても、一部を知るということは、いずれその全体に関心や興味を抱く前提になるかも知れないので、ここで上記の内容と情動制御理論を並べて比較してみることにする。

 第一は退行である。情動制御システムである脆弱系であっても、攻撃系であっても、いずれか一方の制御システムが完成しないと(つまり、複合拘束が形成されないと)、もう一方の制御システム構築のための本格的なプロセスには入らない。そこで、もう一方の制御システムの形成がスムーズに進まなければ、たとえ完成した制御システム側であっても(つまり、複合拘束から単独拘束に戻ってしまい)、退行に似た心的現象を示す。

 第二は転移である。情動制御理論では、たとえ対象表象が投影し、感情転移を起こしても、自己表象は投影せず、感情転移を起こさないという大きな前提がある。それを踏まえた上で、陰性転移を起こす情動因子を列挙すると、それは脆弱系および攻撃系対象不快因子と、攻撃系対象防衛因子である。これに対して、陽性転移を起こす情動因子は、脆弱系対象防衛因子である。ちなみに、信頼は転移を起こさないという真実を忘れてはいけない。

 第三は抵抗である。まず、陰性転移による治療抵抗である。それは(恐怖誘導型病的同一化によって生ずる)恐怖を駆り立てる対象に(加虐型病的同一化である)攻撃的同一化を示し、殺意を肯定(容認)する場合である。これは反社会性の有力な動機付けになる。これに対して、陽性転移による治療抵抗は(依存型病的同一化によって生ずる)支配的な対象に服従し、(自己愛型病的同一化によって生ずる)崇拝や信仰を肯定(容認)する場合である。ただし、崇拝や信仰が抵抗として扱われる場合は少ない。

 第四は解釈である。解釈のあり方は理論に依存する。たとえば、フロイトとコフートは全く異なる言語的介入をしただろうと想像するのは容易い。また、私のような理論を持つ場合、はたして、解釈と謝罪をどう組み合わせるか?むろん、組み合わせられるはずはなく、(しかも私の理論は新しいので、)専ら私の方が批判の的になるかも知れない。ちなみに、犯罪者が幾ら更生しても、再犯が多いという現実の背後に、彼らこそ謝られたことがないという実態があることを推察して愕然としたことがある。なぜならば、彼らが病気を克服するためには、決してあり得ない現実を必要とするからである。

 

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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