意識とは迂回路プロセスである

 意識とは覚醒のために意識ニューロンが作り出す迂回路プロセスである。

 まず迂回路について紹介し、次にプロセスについて紹介する。

 

 1、理解を示す意識の仕組み(メカニズム)

 理解は、様々な心的現象の区別を意味する。その区別を可能にするため、意識ニューロンはそれぞれの心的現象が発する神経活動を意識野に引き込み、選ぶ(区別する)ための迂回路を形成する。

 まず、精神分析的な迂回路は、「前意識⇔無意識」という本道に対して、「⇔前意識⇔意識⇔無意識⇔」という迂回路を形成する。

 次に、脳研究(情動脳)から導き出せる迂回路は、動因系が報酬系または嫌悪系に刺激を伝達する際に形成される。その迂回路の神経伝達経路は、(報酬系や嫌悪系からの)意識ニューロンへの逆行性収斂を特徴とするフィードバック機構を持つ。

 

 2、意識体験は(生成に先んずる)プロセスである。

 意識がもたらす理解は、様々な心的現象から、三種の認知(つまり、情動認知、概念形成、知覚認知)を形成する。まず、外界や身体からの知覚刺激が、情動脳を刺激する。すると、次に、その情動脳から刺激を受ける意識ニューロンが(上記の)迂回路を通して、情動処理を行ない、その結果、情動認知(情動理解)を形成する。さらに、その得られた情動認知は、思考系に概念として記憶され、最終的には、知覚刺激から知覚認知(知覚理解)の形成を行なう。ここまでが意識体験としての、ひとつのプロセスである。換言すれば、意識体験のプロセスは、「知覚刺激→迂回路を用いた情動処理→情動認知→(記憶)概念形成→知覚認知」である。ちなみに、クオリアとは、知覚刺激と知覚認知の差を感ずる意識体験である。

 

                   心的現象に関する概念(1)    

精神分析が明かす意識の原理

 以下の三点を明確にすることによって、精神分析学的に意識の輪郭と構造を鮮明に把握することができる。

 

 1、心の構造

 フロイトの局所論、つまり心の三層構造では、意識の原理を明かすことはできないが、私の新構造論、つまり心の円三分割構造論を用いれば、脳内神経伝達の本道と迂回路を別々に設定することができるので、意識が発生する基盤を準備することができる。

 

 2、自己の誕生

 大きくて複雑な自己が突然、発生するはずがないことは誰にもわかることだが、それでは、どういう手順で自己はできるのかと問われると、容易に答えられないと思う。特に意識が自己の形成にどう関与するか、この点は極めて重要である。

 精神分析統合理論では、自己は三つの手順をもって発生する。

 第一、「取入れと投影」という、メラニー・クラインの概念がある。しかし、この概念だけでは、いつまで経っても、自己という概念につながらない。(「取り入れと投影」の構図を、精神分析統合理論では、「知覚系⇔情動系」という構図に解釈している。)

 第二、そこで、「自己表象と対象表象」という自我心理学の概念が必要になる。人物表象を形成するためには、概念の形成プロセスが必要であり、概念を形成するためには、意識による情動処理が必要である。

 また、自己表象に匹敵する自己とは何かという問いも重要になる。それを今日的に見ると、「メンタライジング」の機能、つまり「模倣の抑制」と類似する。精神分析統合理論では、自己表象の形成を「思考系⇔情動系」という構図に、対象表象の形成を「思考系⇔知覚系」という構図に解釈している。

 第三、精神分析統合理論では、上記の自己表象は、不快ー防衛系の自己防衛因子である「処罰的自己」と「理想的自己」に匹敵する。

 ちなみに、処罰的自己と理想的自己は、意識を有する動物の自己であり、この自己の誕生によって、意識体験と主観体験をはっきりと区別するようになる。

 人間の場合では、引き続き、不快ー制御系に属する様々な自己表象(「反撃的自己」と「謝罪的自己」、それに「誇大的自己」)が形成される。そして、これらの総体が自己を表わす。

 

 3、知覚ー意識系

 極めて素朴に考えれば、様々な知覚が、直接、意識を発生させるだろう。しかし、たとえば夜中に雷が鳴っても、地震が起こっても、それに全く、あるいはほとんど気づかずに寝続けるという我々の日常がある。また、歩いていて、いろんなものを見たり聞いたりしていても、さらにはドライブ中であってさえも、我々は見たり聞いたりしている外界の刺激に全く、あるいはほとんど気づいていない場合が多い。このような我々の日常が教えることは、たとえ知覚が意識を発生させる契機になっても、それだけでは意識を発生させることはないという真実がある。つまり、知覚系が情動系を刺激し、その情動系が意識を発生させる。一旦、意識ニューロンが活性化すると、今度は意識ニューロンが情動処理を行ない、それに引き続き、様々な概念や知覚認知を形成する。

 

                  心的現象に関する概念(1)

三種の快

 不快ー防衛系は、生存に必要な快体験をもたらす。ただし、その快体験は、動物脳に由来し、人間の場合、それだけでは異常心理(病的な体験)しか作り出さない。他方、不快ー制御系は(言語や認識、それに人格などの)すべての精神現象の形成に必要な快体験(救いと許し)をもたらす。したがって、この快体験が不足すると、正常心理(健康な体験)を作り出すことができなくなる。

 不快ー制御系(あるいは不快ー防衛系と不快ー制御系の混合)によって形成される快体験が、さらに継続した(恒久的な)快を求めようとする心的傾向を「快の追求」と呼ぶ。快の追求は、心的現象の二つの領域を拡張する。第一群は、膨大な認知言語の形成である。言語の総体は、情動認知言語として三領域を区別する。それらは、「感情言語」「感情関連言語」「感情潜在言語」である。認知言語は感情潜在言語に匹敵する。また、第二群は、自由意志や好奇心である。

 

                  心的現象に関する概念(1)

言語理解の進め方

 第一段階:感情言語に基づく言語理解

 すべての道はローマに通ずるがごとく、(情動因子を含めた)感情言語によって機能する情動系神経回路機能網(情動制御システム)は、我々人間の心(精神)と言語の発祥の地であり、すべての心性はここから始まり、ここへ戻ってくる。それゆえ、まず心の健康を規定する情動制御システムを人工精神(AM)に入力し、十分な学習を行なわせた後で、それを起動させることが最も重要な課題である。心の正常(健康)と異常(病気)は、心の中でしっかりと根を張っていて、決して流動的なものではない。まさに「三つ子の魂百までも」というように、まず変化しない安定した健全な心に伴う言語理解のあり方を習得し、次に様々な状況判断を必要とするような多義的な情報を柔軟に扱う言語処理について考えていく必要がある。

 

 第二段階:感情関連言語に基づく言語理解

 情動系神経回路機能網(情動制御システム)を構成する14個の情動因子のつながりは、まさにそこが文脈の源である。そして、そこから快・不快領域へ出た時には、もはや準備された文脈は存在しないので、感情関連言語と接続詞を用いて(場合によっては、追加文も挿入して)文脈を作成する。様々な種類の接続詞があるので、それらを駆使すれば、いかなる領域内でも、いかなる領域間でも使用することができる。特に、対照的な心的現象や、因果的な心的現象を、接続詞を用いてつなぐことにより、簡素化された文章や、明確な文脈を作成することができる。もちろん、その時々の状況によっては、簡素化された表現では飛躍が目立ち、不十分な場合も出てくるので、そうした時には(感情関連言語から感情言語へ移動させ、)情動系神経回路機能網(情動制御システム)を通すことにより、しっかりとした文脈を得るという作業が必要になる。

 

 第三段階:動機や意図に基づく言語理解

 人間の動機や意図に関する発生メカニズムや、その内容については、当サイトの「動機理論」で紹介している。動機や意図は、快・不快領域を中心として活動する感情関連言語から、さらにもう一歩遠くへ離れた、快・不快復活領域において、感情潜在言語を使用しながら活動する。しかし、動機や意図が形成される過程において、情動系神経回路機能網(情動制御システム)は大きな影響を与える。それゆえ、いつでも情動系神経回路機能網(情動制御システム)に戻り、動機や意図の内容を(健全なものかどうか)チェックすることが重要である。特に、不快ー防衛系の賦活しやすい精神状態では、破壊的攻撃性を賦活しやすく、自傷他害が生じやすい。それゆえ、今日、異常心理(病的な心性)から解放されるための方法論は必須である。つまり、精神分析統合理論は、不快ー防衛系を不快ー制御系に作り変えることができる。そうした治療操作によって、精神構造(人格水準)をレベルアップし、異常な動機、あるいは病的な意図から解放させることができる。

 

 第四段階:快の追求に基づく言語理解

 上記の第三段階においては、様々な不快が原動力となって、不快ー防衛系による不快の解消や、不快ー制御系による不快の快変換が生じ、その結果、幾つかのタイプの目的や課題が発生する。こうした場合は、動機が発生し、次いで目的が発生する。つまり「動機→目的」である。ところが、快追求の場合は、すでに不快は解消し、新たな不快が未だ発生していないにもかかわらず、さらに快を求める。つまり、得た快を学習し、その快を反復して求めたり、あるいは得た快を超えて、さらに大きな快を得ようとしたりする心的活動が生じている。だから、今度は、すでに達成された目的が新たな動機になり、その動機がさらに新たな目的を生み出す。つまり「動機⇔目的」である。こうした心性は、たとえば利潤追求という動機が利潤追求という目的になり、利潤追求という目的が利潤追求という動機になって現われる。おそらく、こうした傾向はこれからも続くだろうが、我々の未来にとって、快の追求がどれほどの価値を持つのか、よく吟味しなければならない。

 

                   心的現象に関する概念(1)

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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