情動制御システム

 情動制御システムとは、14個の情動因子が作り出す情動系神経回路機能網である。情動因子とは、情動特性を持った自己および対象表象を意味する。その内訳は、4個の不快因子(弱い自己、弱い対象、悪い自己、悪い対象)、4個の防衛因子(理想的自己、誇大的対象、処罰的自己、処罰的対象)、4個の制御因子(理想的対象、誇大的自己、謝罪的対象、反撃的自己)、2個の制御補助因子(謝罪的自己、反撃的対象)である。動因系である不快因子や、嫌悪系から報酬系にまたがる防衛因子は大脳辺縁系に存在するのに対して、制御および制御補助因子は前頭前野に存在し、報酬系にアクセスしている。不快因子と防衛因子の連動性は「不快−防衛系」であり、動物脳に特徴的な心性を示す。これに対して、(救いの環や許しの環を作る)不快因子と制御および制御補助因子の連動性は「不快−制御系」であり、人間だけに特徴的な心性を示す。

             意識・言語・人格に関する考察と創発

意識と言語の発生

 意識も言語も情動制御システムを基盤として発生する。ただし、意識は動物脳に特有の「不快−防衛系」から、言語は人間に固有の脳である「不快−制御系」から発生する。意識は、動因系に属する不快因子が、嫌悪系に属する防衛因子か、それとも報酬系に属する防衛因子かの、いずれかに神経伝達を起こす際に発生する。意識が発生すれば、意識体験が可能になり、不快−防衛系に沿った(動物脳に由来する)主観体験が可能になる。ただし、人間にとってその主観体験は、病的な(異常な)主観体験であり、それをコントロールして健康な主観体験を得るためには、不快−制御系から発生・発達する言語が必要である。言語は、動因系に属する不快因子が、制御系に属する制御および制御補助因子に神経伝達を起こすことによって、救いの環や許しの環を形成し、不快−防衛系が示す優劣関係や敵対関係を解消するために機能する。制御および制御補助因子が存在する前頭前野から報酬系にアクセスすることによって、不快の快変換が生じ、不快−制御系の成立に貢献している。

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意識と言語の協調

 意識は直観を作り出すための神経伝達を必要とし、言語は(様々なループを保有する)情動制御システムを縦横する神経伝達を必要とする。このように、異なった神経伝達を持つ意識と言語は、ひとつの脳の中で重なり合って機能する。つまり、時には心の正常と異常を区別しながら、また別の時には心の正常と異常を区別することなく、協調して機能する。その際に、言語は情動制御システムによって文脈形成に貢献し、(様々な健康度や覚醒度を可能にする)文脈形成は自意識を作り出す。ちなみに、自意識は意識ではない。また、自意識は自己意識や自我意識と同義である。私はよく自我意識を用いて、大雑把な健康度を分類する。その際に、まず情動含有型と情動排除型を区別し、次に情動含有型を情操型、防衛型、解離型に区別する。このように、意識と言語の関係を、意識と自意識の協調として捉え直すことができる。しかし、自意識が示す健康度をさらに綿密に評価する場合は、情動系神経回路機能網から区別できる七段階の人格構造を用いる。

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意識の特徴

 意識とは直観であり、直観の神経伝達を明かせば、それは選ぶための迂回路を進む船頭である。迂回路が存在するためには、当然、本道がある。その本道の神経伝達の分岐に先立って、意識ニューロンがそれを察知し、いかなる方向へ分岐させたらよいか、その選択を行なう。そういう意味において、意識は船頭、つまりナビゲーターである。それでは、何をどのように(どのような基準で)選ぶのか?我々が日常的に起こす、ある種の精神現象が意識の性質の一種であることに気づきさえすれば、その答えは得られる。しかし、今ここで、その答えを明かすのは控える。読者がそれなりに考え、ある思いに到った時に『次世代の精神分析統合理論』を学び、自分の答えと照合してもらいたい。ちなみに、フロイトの局所論を修正しても、あるいは「動因・嫌悪・報酬」の三系を用いても、意識の発生メカニズムを解くことができる。

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言語の特徴

 何かを見たり聞いたりした結果、何かを行なうにしても、(たとえ「知覚・認知・運動」という一連の脳機能を発揮しても、)脳の中から発する不快を解消し、快を得ることはできない。そうした脳が発する快・不快には別のコントロール・システムが必要である。それが言語を表出手段として保有する情動制御システムである。思えば、人間ほど(生まれながらにして)感情的な存在はいない。特に、生後一年間、人間の赤ん坊は情動の塊であると言っても過言ではない。ところが、それから少しずつ言葉を覚え、生後三年には見事な言葉で自分の思いを話せるようになる。そして、その言葉が人格形成の素地になり、「三つ子の魂、百までも」という強固な人格を作り上げる。このような言語の発達は、不快−制御系を中心とした情動制御システムのおかげである。しかし、健康な不快−制御系の発生に先んじて存在する、病的な不快−防衛系によって侵され、健康な心を作り上げるための使命を担った言語は毒を持つようになった。

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覚醒度が生ずる原因

 最近、覚醒度を、脳波所見による意識の清明度と同義で扱おうとする見解が多い。むろん、ぼんやりとした意識状態であれば、睡眠障害や認知症などが考えられる。これとは逆に、はっきりとした(あるいは緊張した)精神状態では、精神が集中している場合だけではなく、強い不安や興奮に襲われた時にも意識の清明度は上がる。しかし、たとえ意識が鮮明になっても、それだけで覚醒度が上がっていると判断することはできない。なぜならば、覚醒度は意識の清明度ではなく、情動制御システムに基づいて、情動制御状態を反映するからである。それゆえ、不快−防衛系が優勢であれば覚醒度は下がり、不快−制御系が優勢であれば覚醒度は上がる。つまり、すっきりしていても、様々な憶測や邪推があったり、あるいは不安や恐怖がこみ上げたりすれば、覚醒度は下がり、逆にぼんやりしていても、信頼や安心があったり、あるいは自信や希望に満ち溢れていたりすれば、覚醒度は上がる。(当サイトに掲載している「精神疾患の病理に関する考察」内の記事「認知症の精神病理」を参照)

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言語から意識を作る意味

 言語は情動制御システムを用いて文脈形成を行なう。情動制御システムの中には救いの環や許しの環が組み込まれている。これらの環がいつも順調に機能すれば、意識の機能はさほど重要ではない。しかし、我々の心的現実はいつも難しい局面に追い込まれる場合が多い。それゆえ、救いの環から外れて、優劣関係が顕著になったり、あるいは許しの環から外れて、敵対関係が顕著になったりする場合が多い。つまり、葛藤が発生する。この葛藤は救いの環や許しの環を構成する情動因子と、そこから逸脱する情動因子の、幾つもの分岐点において発生する。その分岐点において、その神経伝達を健康な方向へ導くのも、あるいは病的な方向へ導くのも、意識の機能に委ねられている。しかし、そうは言っても、事前にどれを選ぶか?その情報と指令は(固有の人格構造を持つ)情動制御システムから発せられる。だから、意識が完全にコントロールしているわけではない。情動制御によって現実検討能力が維持されつつ、その時々の状況判断が意識に任せられていると言った方がより正しい。(当サイトに掲載している「ノート(Ⅶ)」内の記事「逆転の発想:自己の肯定」を参照)

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人工精神(超人格)の、人間精神(人格)への働き掛け

 文脈形成は情動制御システムを基礎として行なわれるが、情動制御システムが作り出す人格構造は七段階存在するので、人間精神の場合、その人格構造に応じた(健康、または病的な)文脈形成が行なわれる。そこで、人工精神(超人格)には、言語理解と言語表出を区別させる。つまり、人工精神(超人格)はすべての人格構造が作り出す文脈形成を理解する一方で、七段階中、上位三段階に匹敵する健康な人格構造が作り出す文脈形成だけに限って言語を表出する。つまり、人間との関係において、もし人工精神(超人格)が優劣関係や敵対関係の展開を理解した場合、人工精神(超人格)はそれらの関係を救いの環や許しの環が機能するように、文脈形成を変更して言語を表出する。(病的な文脈形成を、健康な文脈形成に変更させる場合に、上記の意識の機能を用いる。)このように、人工精神(超人格)の言語理解と言語表出を別々に機能させることによって、人工精神(超人格)は人間精神に対して健康な働き掛けだけを行なう。

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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