意識と覚醒の違い

 ウィキペディアでは、意識障害について、意識とは何かという問いには答えてはいないものの、意識障害を起こすメカニズムは(脳幹網様体にある)覚醒と(大脳皮質にある)認知であると紹介している。このウィキペディアによる紹介のように、覚醒の主座が脳幹網様体であるとすれば、睡眠の主座はどこにあるのかという問いが出てきても不思議ではない。 

 このウィキペディアの紹介に対して、私は従来の見解を固辞したいと考える。つまり、意識障害はあくまでも意識ニューロンに由来するものであり、意識ニューロンこそ、脳幹網様体に存在するという考え方である。たとえ、いかなる場合であっても、脳幹網様体に存在する意識ニューロンが、機能的、あるいは器質的に、またその一部分、あるいはその大部分が、損傷を受けた際に、様々な意識障害が発生する。 

 覚醒の対語は睡眠である。もし意識の主座を覚醒に乗っ取らせてしまい、意識の対語が睡眠であるかのように仮定すると、奇妙な組み合わせができ上がる。ちなみに、眠った状態でも意識はある(つまり、意識ニューロンは生きている)が、意識がないというと、その人は死んでいると理解される。その意識のある、生きている人が、起きているか、それとも眠っているか、という精神状態(心的状態)のあり方を問う場合、覚醒と睡眠を促す「非」意識ニューロンの役割が重要になる。

 

                  意識と覚醒

意識と覚醒に関する基本的な考え方

意識とは 

 意識とは意識ニューロンの活動である。 

 意識ニューロンの在り処が問われている。

 

意識障害とは  

 意識ニューロンの活動低下である。  

 意識ニューロンの活動が低下すると、様々なレベルの意識障害が出現する。  

 

覚醒とは  

 意識ニューロンと、意識ニューロンに関係する非意識ニューロンの活動である。 

 

覚醒度とは  

 意識ニューロンが活動している時の、非意識ニューロンの活動が意識ニューロンに及ぼす影響の度合いである。  

 非意識ニューロンの活動が低下すれば、それに連れて、意識ニューロンも十分な活動ができなくなる。

 

睡眠とは  

 非意識ニューロンの影響下で生ずる意識ニューロンの活動休止である。

 

夢とは  

 夢は意識ニューロンの活動休止中に、非意識ニューロンが(あたかも意識ニューロンが活動しているかのように)活動している心的現象である。  

 

覚醒とは  

 非意識ニューロンの影響下で生ずる意識ニューロンの活動である。  

 覚醒に関する二つの定義は矛盾しない。

 

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意識レベルと覚醒度

 意識が意識ニューロンの活動によって発生していることを示すために、二種類の臨床的観察が存在するので、それについて若干の考察を加える。ひとつは、たとえ脳に広域な器質性病変が発生しても、必ずしも意識障害は発生しないという場合である。たとえば、脳卒中が生じ、それによって、失認、失語、感覚麻痺、運動麻痺などが生じても、意識障害は発生しない。ところが、これとは対照的に、様々な代謝性疾患は、その疾患によって産出される代謝性物質が意識障害を起こす場合がある。しかし、もしその代謝性疾患が改善し、それにつれて、意識障害が改善すれば、その他の脳機能にも後遺症を残さない場合がある。このような事情ゆえ、その他の脳部位からの悪影響が、意識障害を起こすという可能性は低い。つまり、脳の広範囲な非意識ニューロンが存在する領域が損傷を受けても、それは意識障害につながらず、代謝性疾患群のように、意識ニューロンにも非意識ニューロンと同様、無差別的にダメージを与え、意識障害が発生しても、それはその他の脳部位からの影響に基づくものではない。確かに、現時点において、未だ意識ニューロンの在り処は特定されてはいないものの、どこかに局在する意識ニューロンがダメージを受けて、意識障害が発生していると考えるのは十分な根拠になり得ると考える。

 意識障害が意識ニューロンの活動低下によって発生するのに対して、覚醒度の高低は意識ニューロンだけに由来するものではなく、非意識ニューロンの影響が強く反映される。つまり、覚醒や睡眠は非意識ニューロンの意識ニューロンへの働き掛けによって発生する。非意識ニューロンは意識ニューロンほど疲れないので、たとえ意識ニューロンを休ませても、それと同時に非意識ニューロンが休んでしまうことは少ない。むしろ意識ニューロンを休ませている間に、非意識ニューロンがやるべきことをやり、それをやってしまえば、今度は意識ニューロンに覚醒を促すというパターンが存在すると考えられる。ところが、たとえば認知症などのように、非意識ニューロンが十分に機能しなくなると、意識に対する覚醒と睡眠のリズミカルな指令が出せなくなる。すると、意識ニューロンは覚醒すべき時に覚醒せず、休止すべき時に休止することができなくなってしまう。前者の場合では、覚醒がはっきりせず、傾眠傾向が出現する。また、後者の場合では、非意識ニューロンによる活動休止という指令が中途半端になってしまい、不眠に陥る。したがって、このような傾眠と不眠は意識ニューロンの障害が原因ではなく、意識ニューロンの周囲にあって、意識ニューロンに覚醒と睡眠の刺激を誘発するための非意識ニューロンの障害である。

 

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「非」意識(ニューロン)の成せる業

 意識の二つの状態、つまり覚醒と睡眠に強く影響するのは、「非」意識(ニューロン)である。この前提が崩れれば、覚醒と睡眠を隔てるものは、一体、何かという疑問が生ずる。しかし、この疑問を解くことはできないだろう。

 それでは、(TMS脳波計測定で得られた)覚醒時とレム睡眠時の、よく似た脳波は、どういう理由によるものなのか?そして、また、夢の中で夢を見ている自分に気づくという現象は、どういう理由によるものか?ごくごく当然な質問である。しかし、これらの質問であれば、(先ほどの)覚醒と睡眠の違いを、意識(ニューロン)抜きで説明するほど難しくはないと思う。

 覚醒時とレム睡眠時の脳の活動が類似する理由は、意識(ニューロン)によるものではなく、「非」意識(ニューロン)の中でも、「前意識(ニューロン)」と呼ばれる脳の領域にあるニューロンの仕業であると考える。前意識(ニューロン)は記憶、模倣、学習の「プロ」ニューロンの集まりである。だから、意識(ニューロン)が行なう大部分の仕事を取り入れて自分のものにしてしまう。それゆえ、両者は似ているが、全く同じにはならず、しかし、その微々たる違いが意識(ニューロン)によってもたらされるものの、脳波上の違いとしては極めてわかり辛いという理由が存在するのだろう。(ちなみに、私はこの前意識ニューロンを「自己」ニューロンと呼びたいが、それは別のサイトで導入する。) 

 そして、もうひとつの質問である。もし『夢を見ている自分』に気づくのが、意識(ニューロン)の仕業とすれば、「『夢を見ている自分』に気づいている自分」に気づく時、それはどういうニューロンによるものか?この質問に唖然とした読者がいるかも知れない。この答えは、「夢の原理」という別のページの中で紹介する。

 

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意識と覚醒に関する二つの研究アプローチ

 意識と覚醒に関する研究を、大きく二通りに区別することができる。ひとつは、意識(体験)の全体枠を規定しようとすることを目的としたアプローチであり、もうひとつは、意識(ニューロン)の正体を明らかにすることを目的としたアプローチである。換言すると、前者は意識の境界を問題にしようとし、後者は意識の仕組みを問題にしようとする。

 意識(体験)の全体枠を規定しようとするアプローチは、意識(体験)の境界に関する問題として提出されている。ちなみに、意識(体験)の特徴として、「統一性」や「個別化」が存在すると主張される。この考え方は、哲学的な研究だけではなく、科学的な研究とも、軌を一にしているところがある。なぜならば、意識(体験)を数量化することができれば、(つまり、意識の統一性と個別化を規定することができれば、)意識(体験)に関する事柄を処理することができるようになるからである。そのように意識を規定することができるようになると、数量の大小によって覚醒も規定することができるというメリットが生ずる。むろん、人工意識の創発をめざすことも容易になるだろう。ただし、その数量化が実際の意識(体験)を表わしているかどうか、検証を重ねる必要があり、その点、いつも研究の根本に関わる懸念が付きまとっている。

 これに対して、意識(ニューロン)の正体を明かそうとする作業は、生物学を基調とし、脳神経学的な特徴から、局在する意識ニューロンの構造と機能、そこから拡大、拡張する前意識(ニューロン)との相互関係に、意識と覚醒の原理と本質を見ようとする考え方である。しかし、実際に意識ニューロンを見つけられなければ、このアプローチは難航するに違いない。そこで、たとえ意識ニューロンを見つけることができなくても、意識(ニューロン)の周辺部の様子、つまり「非」意識(ニューロン)が作り出す「主観と客観」をテーマにした自意識(自我意識や自己意識)に関する解明を行なうことによって、意識の仕組みを浮き彫りにすることができる。すると、それに伴って、情動・意識・言語・精神の因果関係を解明することができるようになるので、それを利用して、言語的意識を持つ人工精神(AM)を創発することも可能になる。

 

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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