精神分析療法の特徴

 精神分析療法の特徴は、精神分析療法を行なう上で、他の精神科治療とは異なった仕組みや、それに基づく内容を明確に区別し、実施することのできる治療体系を持っている点である。その特徴は、治療理論、治療適応、治療構造、治療技法、治療能力、治療関係、治療経過、治療終結、治療効果の九部門にそれぞれ存在する。ここでは(当サイトの他のページに紹介した内容と重ならないように)治療技法と治療関係、それに治療経過を除く六つの特徴について取り上げる。

 昨今、ネットでは、精神分析療法に関する様々な紹介が掲載されている。その中の一部に目を通してみると、そのほとんどは精神分析療法に関する内容よりも、むしろ精神分析療法に類似した「精神分析的」な治療の紹介が多いような印象を受ける。つまり「本格的」な精神分析療法は(下記の紹介で明確化するが)、精神分析的精神療法や精神分析的心理療法と全く異なった特徴を有している。たとえば、精神分析的精神療法や精神分析的心理療法の場合は、週1~2回、対面法が多いので、多くの精神分析療法の特徴を欠く。

 精神分析技法論

 基本的な精神分析技法:転移・抵抗・解釈

 精神科疾患移動論

 

                 精神分析療法入門

精神分析療法の治療理論

 治療のための理論と言う場合、それは治療技法や治療関係を意味するものではない。精神分析療法の治療技法や治療関係は、いかなる治療理論であっても、精神分析に共有されたものであり、その治療技法と治療関係を用いない治療は精神分析療法ではない。それでは、治療理論とは何か? わかりやすく言えば、ある疾患群に関する治療経過の描写を意味する。終結したり、中断したりする精神分析療法の中から、それらの転機に共有する様々な精神力動を盛り込んだ共通項を取り出して、より一般的、かつ必然的なものとして編集することができたものを治療理論と呼ぶ。それでは、どういう疾患群に対する治療理論なのか? たいがい、そうした場合には治療の適応という概念にすり替えて紹介している場合が多い。たとえば、自己心理学(理論)では自己愛性パーソナリティ障害がその適応であるという具合いに。対象関係論にしても、自己心理学にしても、その学派が重要視する治療姿勢(治療技法や治療関係)が生み出す必然的な治療経過の規則性を治療理論にしている場合が多い。

 精神分析的根治療法

 新しい心の科学

 精神科疾患移動論   

 精神分析技法論

 基本的な精神分析技法:転移・抵抗・解釈

 

                精神分析療法入門

精神分析療法の適応

 精神分析療法を行なおうとすると、当然、その適応と禁忌がテーマになる。これらについて、素人向けに案内や説明をするのであれば造作のないことであるが、本気で「受けたい」と思う人や、本気で「治したい」と思う人に対しては、どうしても慎重な説明が必要になる。いかなる疾患群においても、治療動機は重要である。しかし、(病態水準に基づく)人格変化が望めないと考えられる人や、言語的コミュニケーションの困難な人などは、適応がない。ちなみに、すべての統合失調症の患者さんが精神分析療法の適応を欠くとは言えない。だいたい、発症して何十年も経過した統合失調症の患者さんが精神分析療法を望むとは考え難い。それに対して、発症して数年以内の比較的若い統合失調症の患者さんであれば、その動機次第で精神分析療法は可能である。むろん、その場合でも、いきなり精神分析療法を行なうのではなく、精神分析的根治療法の中の後半のプロセスとして精神分析療法を採用する。

 精神分析的根治療法

 精神科疾患移動論

 顔が示す精神力動

 

                 精神分析療法入門

精神分析療法の治療構造

 当サイトの「顔が示す精神力動」の中でも紹介しているように、寝椅子(カウチ)を用いた背面法による自由連想法を1時間、毎日(実際には週4~5回程度)行なうことが原則である。これ以外を精神分析療法とは言わない。これによって、必然的に料金の問題が生ずる。(保険診療ではなく、自費である。)たとえば1回の料金が1万円だとすると、1か月に20万円前後の治療費が必要である。所によっては、多少の割引をしているだろうが、それでも高額である。そんな治療を何年間も受けるとなると、はたして受けられる人がどれだけいるか? まして、治療効果が曖昧であれば、なおさらのことである。これは余談であるが、私は教育分析(教育分析医による精神分析療法)を400回近く受けたので、大金を支払った。アメリカ合衆国まで行って、大金を使ったのである。(アメリカで精神分析医になるためには、300回以上の教育分析は必須である。)はたして、その効果は? 確かにあった。それは、受けた私が実感するところである。その後、私の心は自由になった。

 顔が示す精神力動

 

                 精神分析療法入門

精神分析療法の治療能力

 そもそも、統合失調症に精神分析療法をやったことのない人が、それは禁忌であるなどということは僭越であり、精神分析療法の治療能力のない人が、そうした議論をすることは禁忌である。ただし、たとえ精神分析療法のトレーニングを受けたからと言って、その人がそれをやれるという保証は何一つないことを理解しておく必要がある。治療能力として重要なことは、まず自分が教育分析(教育分析医から受ける精神分析療法)を受けて、葛藤から解放されていなければならない。次に、病的状態にある患者さん、たとえば境界性パーソナリティ障害障害や、統合失調質パーソナリティ障害の精神分析療法を終結した経験があるという条件も必要である。この点に関しても、当サイト内の別のページで紹介しているので、それも理解してもらいたい。さらに、たとえ、たいへん有能な治療能力を身に着けた人であっても、自分一人で挑戦しない方がよい。優れたパートナー(もう一人の精神分析医)が必要であり、それはいずれ人工精神に置き換わる可能性がある。

 精神分析的根治療法

 

                 精神分析療法入門

精神分析療法の終結

 精神分析療法は必ず終結しなければならない。当然、治療の終結は治療の成功を意味するのだが、不幸にして、治療が失敗し、中断する場合もある。いずれにしても、患者は高額な治療費を支払うわけだから、成功・失敗の区別なく、必ず終わらなければならない。成功するということは、精神病状態から病的状態へ移行したり、病的状態から防衛状態へ移行したりして、人格(水準)が変化することを、そして防衛状態であれば、葛藤が解消することを意味する。厳密に言えば、たとえ精神病状態であっても、葛藤が解消する段階に到らなければ治療中断ということになる。しかし、患者の症状が改善し、主観的に悩まなくなれば、患者の治療動機が失せてしまうので、そういう時は治療の再開を保証しながら終結(中断)すべきである。また、治療の効果が望めなくなったと治療者が判断した時点において、治療者は治療の中断を提案しなければならない。治療の効果が得られないことがわかっていて、治療を続けるのは詐欺行為である。

 

                精神分析療法入門         

精神分析療法の効果

 患者さんから「おかげで、よくなりました」と感謝されることが重要である。感謝されれば、治療の効果についての評価と、追跡調査に協力してもらえる。治療終結時、どのように良くなったかという点について、アンケートを作り、それに記載してもらって、署名をもらう。また、その時に追跡調査のお願いもする。たとえば、半年後、一年後、三年後の患者さんの状況や精神状態について、つまり患者さん自身の評価や治療の効果などについて、これもまたアンケートを作成し、別れる時にそのアンケート用紙を渡して、指定した月日の後に、それを書いて送ってもらうように手配する。(むろん、何らかの形で、そのお礼をするのは一向に構わない。)このようにすれば、精神分析療法の効果は明確に得られるだろう。私はアメリカで教育分析(教育分析医による精神分析療法)を受けて30年になるが、今もなお、その当時のことはしっかり憶えている。つまり、どういう悩みが解消したか、いつでもはっきりと自覚することができる。それ位、精神分析療法はパワフルなものであるということを伝えておく。

 

                 精神分析療法入門

精神分析療法の意義

 本来の精神分析療法は極めて厳格な規則と内容を保持している。しかし、昨今、様々なストレスを被って、いわゆる神経症(防衛状態)になる人も増えているので、そういう人達のために、より安価(保険診療が可能)な精神療法や心理療法があり、それらによって治療の効果が得られるようになった。それでは、実際のところ、本格的な精神分析療法はどのように使われるのだろうか? はっきりとした使用法は二つある。ひとつは健康な治療者を作るための教育分析として必要である。精神分析医になるためには、自分の葛藤化しやすい状況の認識が必要であるから、教育分析医による精神分析療法は必須である。そして、もうひとつは精神分析的根治療法の後半の治療を担当する役割として必要である。精神病状態や病的状態にある患者さんに、いきなり精神分析療法は困難だから、精神病状態では病的状態へ、病的状態では防衛状態への人格水準の移行が可能になれば、仕上げとしての精神分析療法が可能になる。

 精神分析的根治療法

   

                 精神分析療法入門

精神分析療法の制度

 私はアメリカで精神分析の研修を受けたので、アメリカと日本の制度の違いについて触れておきたい。最も大きな違いは、診療報酬にある。アメリカでは、精神分析医による精神分析療法と、精神科医による精神療法の診療報酬が大きく異なっている。アメリカでは、地位も報酬も、精神分析医の方が精神科医よりも高い。なぜならば、アメリカでは精神分析医を養成する公的な機関が、精神医学の頂点に存在するからである。これに対して、日本ではそうした機関がない。だから(ちょっと精神分析をかじった)精神科医が標準型精神分析療法を採る。しかし、その診療報酬は特別な性質のものではない。なぜならば、日本には公的な精神分析の制度が存在しないからである。このアメリカと日本の違いは決定的であり、この違いから様々な解釈が可能になる。つまり、日本人は心の科学に弱いという見解になったり、あるいは日本人は会話にお金を支払う習慣がないという見解になったりする。

 

                 精神分析療法入門

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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