文脈の意義

 言語の本質は「快・不快」である。よって、文脈の本質もまた「快・不快」である。しかし、情動系は動物脳に共有された「不快−防衛系」と、人間に固有の「不快−制御系」に区別することができる。不快−防衛系は「状況判断能力」の源であり、その状況判断を「現実検討(現実吟味)能力」として高める機能が、不快−制御系である。不快−防衛系によってもたらされる(状況や背景などを含んだ)状況判断は、本来、意識の機能である。意識は動物脳が行動を起こすための稼動システムである。しかし、動物脳は言語を保有しない。動物脳が持つ状況判断能力だけでは、つまり意識の力だけでは、人間に固有の精神現象の正常と異常(つまり、心の健康と病気)を区別することはできない。これに対して、人間が持つ(言語を基盤とした)文脈は、不快−制御系に由来する現実検討能力、つまり心を正常(健康)に維持することのできる能力である。それゆえ、文脈の価値は、行動で表現することのできない言語特有の(精神)世界にある。

 

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文脈前提(行動と文脈の類似点)

 文脈を起こそうとする精神力動は、行動を起こそうとする精神力動と同じである。ある状況において不快(動因)が発生すれば、意識が賦活されて覚醒度が上がり、その不快に対する報酬と嫌悪の反応が選択される。その結果、何らかの(行動や文脈の)目標が設定され、それに連動して意志の発動機関も活性化する。つまり「動機理論」の中の「動機の発生メカニズム」が稼動する。孤独型誇大的自己から、すべての脳部位に向けて刺激が送られると、「知覚系⇔思考系⇔情動系」が活性化し、情動制御システム(不快−防衛系および不快−制御系)も活性化する。むろん、その刺激の種類や性質は千差万別であるが、まず目標が設定され、次にそれを実行するための具体的な手段が講じられる。実行可能なシナリオができ上がるまで、孤独型誇大的自己からの主客分離(有化)と、意識への主客融合(無化)、それに前意識における行動プログラムまたは言語システムが循環しながら稼動し続ける。

 

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文脈決定(行動と文脈の相違点)

 上記のように、情動系や意識の機能、それに動機の発生メカニズムに関して、動物も人間もほとんど同じ精神力動を展開する。それでは、どこに違いがあるか?それは、ひとえに前意識の構造と機能にある。情動制御システム、行動プログラム、それに言語システムなどは、すべて前意識において構築されるが、動物と人間では、前意識の構造と機能に大きな違いが存在する。情動制御システムに関して、動物脳では不快−防衛系だけが、人間固有の脳では不快−防衛系と不快−制御系が存在する。また、動物脳では行動プログラムだけが、人間固有の脳では行動プログラムと言語システムが存在する。たとえば、サルは簡単な道具や製品を作れるかも知れない。しかし、その道具を利用してさらに込み入った道具や、その製品を改良してさらに利用しやすい製品に作り変えることはできない。これらは、人間の前意識に言語システムを構築するための「入れ子」構造を持つ神経伝達網や、不快−制御系(救いの環や許しの環)を機能させる神経伝達網が存在するから、可能になる。

 

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文脈決定2(行動と文脈の相違点2)

 人間が言語を持つようになると、人間の行動は動物の行動から大きく変容するようになった。知覚系から運動系に直結する反射的な行動は変わらないが、意識的な行動、前意識的な行動、無意識的な行動という具合に、人間の行動プログラムは言語システムの影響を強く受けることになった。この変容した内容を、人間の行動の質や量の変容としても見積もることができる。さらに、言語活動の発語領域は運動機能を必要とするので、そうした視点から、行動の変容に留まらず、言語は行動の乗っ取りを行なったとする見方も可能である。ちなみに、動物の行動やその変化は、意識だけによってなされるので、それを文脈と呼ぶことはしない。しかし、人間の場合、行動とその変容は意識だけではなく、言語(や言語によって発生する認識)の関与もあり、さらには言語が行動とその変容をコントロールする場合も多いので、その行動と変容を文脈と呼ぶこともできる。つまり、人間の行動は、言語から発生する文脈によって包摂されたと言っても過言ではない。

 

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言語分布

 我々の精神活動は言語を中心としてなされていると言っても過言ではない。我々は多くの言語を有しているので、当然、その言語が自由に活動する「心的空間」を想定することができる。むろん、心的空間と言っても、それは一つのたとえであり、そうした空間を成すように、多くのニューロンが錯綜した神経伝達を可能にする場が存在するという意味である。現時点において、詳細な(言語的)神経伝達のあり方は不明である。はたして、人間の脳の中で、どのような神経活動が展開されているか?その解明がもたらす評価尺度を持ち合わせていないが、そうした神経活動の場を(逆に)心的空間として見積もることができれば、言語を中心とした精神活動を人工的に作ることができる。それが私のいう言語分布である。すでに紹介しているように、言語活動とは、四次元立方体(知覚系「自・他」モード、思考系「有・無」モード、情動系「快・不快」モードの三軸が作り出す立方体)の中で、情動制御システムが稼動することを意味している。

 

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文脈齟齬

 状況、目的、動機、意志などを設定し、行動化を阻止して、言語化を行なう。私のいう情動認知言語は、言語空間の中心部分を感情言語が、その中間部分を感情関連言語が、その周辺部分を感情潜在言語、つまり認知言語が占めている。情動制御システムは感情言語と感情関連言語を統率するが、語彙数は圧倒的に感情潜在言語の方が多い。かつて、我々は感情言語と感情関連言語によって文脈を作っていたが、それらだけでは語彙数が少なく、会話や文章に発展性を欠き、決定された趣旨で文脈を作ることは困難であったと考えられる。それゆえ、文脈齟齬の状態に陥り、相互理解に限界をきたすようになった。そこで、そうした不十分さを補うために、身体や身体にまつわる現象、自然や自然にまつわる現象に関する言語化を行ない、語彙数を増やしてきたと考えられる。つまり、言語の多義性や比喩性は、文脈齟齬を解消するための方便である。この役割を担う感情潜在言語が感情関連言語として機能すると、感情言語も賦活され、その感情潜在言語を用いた情動制御システムが稼動する。

 

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文脈維持

 話したい、書きたいという思いがある限り、話し続け、書き続けることによって、文脈を維持しようとする。つまり、何らかの欲求があり、目標を設定すると、文脈を維持し続けようとする動機や、内容に関する吟味が繰り返し蘇ってきて、そのプロセスを循環し続ける。具体的にどういう語彙や言い回しを用いて主張し続けるかということになるが、重要な点は二つある。ひとつは、助詞の「て・に・を・は」を、スムーズに使えることである。そして、もうひとつは、どういう形で文脈を維持するか、接続詞の使い方である。ある接続詞が出てきて、グッと注意や関心を惹きつける場合もあるし、ある内容を主張した後の接続詞によっては、えっ!という具合に疑問や違和感が生ずる場合もある。だから、そういう意味において、接続詞は大きな影響を与える。これは余談であるが、接続詞の代わりに、自分でしきりにうなずきながら話し続ける人がいる。あるいは、同じ接続詞を何度も連発し、その内容はひどく薄っぺらいという場合もある。

 

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文脈異常

 咄嗟に「何してる?」と尋ねられた時、「いや、別に・・」と答えるのが自然かも知れない。ところが、その時「息(いき)してる」と答えられたら、どう反応するか?これは「うるさい!」という意味か?おそらく、共有したくないという思いがあっての反応だろうが、さてどうするか?かつて患者に「寒いね!」と声掛けしたら、「暑いね!」と返されたことがあった。私はびっくりして苦笑したが、その時、患者は怒ったのだろう。なぜならば、患者はしきりにぶつぶつ話していたからである。私は、患者の幻聴との会話を邪魔したのである。発した言葉のタイミングが適当でなければ、それは共有されないだろう。ちなみに、言葉を発するタイミングが共有されている状況で、その場に相応しくない言葉を発した場合はどうか?おそらく、その人には人格構造のもたらす文脈異常が存在するだろう。不快−制御系の中の「救いの環」が形成されない脆弱系病的状態(重症人格障害)には、共有されるべき場(雰囲気)が共有されないという問題点がある。

 

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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