情動研究の現状

 脳科学や言語学ではもちろんのこと、精神医学や精神分析学においても、情動に関する研究、とりわけ、その中でも情動(快・不快)の性質や仕組み、それに情動の(意識や言語などの)他の脳機能への影響に関する研究は極めて乏しい。情動(快・不快)は意識や言語、それに人格などを作り出す源であるが、その情動については言及せずに、意識や言語、それに人格などをテーマにした論述をよく見かける。むろん、それらが的を射た議論になることはない。そこで、私はそうした問題を一掃するための方法論を提示する。本書『次世代の精神分析統合理論:意識・言語・人格を持つ人工精神(AM)創発理論』では、情動、意識、言語、人格、精神疾患、精神症状、根治療法などの、すべての精神現象を、一つの理論にまとめ上げている。

                              情動研究

多種研究領域(様々な脳機能)をつなぐ精神分析統合理論

 精神医学における疾患群は、様々な精神症状群の中から特徴的なものを幾つか選んで組み合わせ、命名される場合が多く、その疾患群を支える症状形成に何らかの法則性があるわけではない。これに対して、精神分析統合理論では、情動制御システム(情動系神経回路機能網)という法則を用いて、疾患群と症状群をつなぐことができる。また、精神分析学はフロイトの二つの局所論を用いるが、フロイト自身、それらの間の整合性に疑問を抱いていた。これに対して、精神分析統合理論では、二つの局所論をいずれも修正した結果、両者間にはしっかりとした整合性が存在するようになった。さらに、脳科学は未だ意識の構造やその機能について、十分な輪郭を描けずにいる。つまり、意識の本質を言い当てることができていない。これに対して、精神分析統合理論では、意識の原理や本質について、詳細かつ正確に言及している。なお、言語学の主流である認知言語学は、人工知能(AI)のための言語学である。これに対して、精神分析統合理論では、感情言語を中心に据え、認知言語も吸収しながら、新たな言語体系を構築し、文脈形成も可能にしている。(詳細は『次世代の精神分析統合理論:意識・言語・人格を持つ人工精神(AM)創発理論』に譲る。)

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第一局所論の修正

 第一局所論を修正することによって、意識の発生メカニズムを解くことができる。フロイトの第一局所論は、(上から順に)意識・前意識・無意識という三層構造を成している。この三層構造を用いると、意識と無意識の直接の交流はなく、すべての刺激が前意識を経由しなければならない。しかし、実際に、たとえば(動因系に属する)不快な思いは前意識を経由することなく、無意識から直接、意識に届き、これとは逆に、(嫌悪系に属する)恐怖心は前意識を経由することなく、意識から直接、無意識へ消え去る。このような心的現実のあり方を吟味し直すと、第一局所論を円三分割構造に修正することによって、すべての精神現象の精神力動を矛盾なく説明することができる。つまり、睡眠時では「前意識⇔無意識」の刺激伝達経路であるが、覚醒時では「⇔前意識⇔意識⇔無意識⇔」も出現する。これは、意識が前意識と無意識の間に割って入ることを意味し、(意識の神経伝達回路は)一種の迂回路を形成する。このように、意識は迂回路であると理解すれば、あくまでも「意識=覚醒」であり、「統合情報理論」が主張するような「夢もまた意識である」という間違った考えを容認する必要はなくなる。(詳細は『次世代の精神分析統合理論:意識・言語・人格を持つ人工精神(AM)創発理論』に譲る。)

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意識の発生メカニズム

 たとえ覚醒時であっても、知覚認知や情動認知、それに認知行動などを含む情報の統合、しかも、それらの取捨選択に関して、常に意識がそのすべてを管轄しているわけではない。意識はそれらの機能に部分的に関与し、大部分を前意識(または無意識)の機能に任せている。つまり、たとえ覚醒時であっても、(上記の)「⇔前意識⇔意識⇔無意識⇔」の他に、「前意識⇔無意識」も生じていて、これらが同時に機能し続けている。「⇔前意識⇔意識⇔無意識⇔」の最も原型的な神経回路は、(無意識から直接、意識に浮上する様々な不快としての)動因系に対して、(前意識や、前意識を経由する無意識から、意識に浮上する)報酬系か、それとも嫌悪系の、いずれかが優先的に機能するという二者択一的な状況が発生し、意識はその状況把握と判断を示す。つまり、意識とは状況判断能力である。意識を一種の迂回路として規定することによって、意識野における(個々の)意識ニューロンが、どのような神経回路を形成するか、その出入力をわかりやすく描くことができる。それゆえ、「グローバル・ニューロナル・ワークスペース理論」が示すような神経伝達上の曖昧さを残さない。(詳細は『次世代の精神分析統合理論:意識・言語・人格を持つ人工精神(AM)創発理論』に譲る。)

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第二局所論の修正

 第二局所論を修正することによって、言語の発生メカニズムを解くことができる。フロイトの第二局所論は、「エス・自我・超自我」という、三つの審級を持つ精神装置である。しかし(残念なことに)、二つの局所論が一致することはなかった。実際、フロイト自身もそれを嘆いていた。そこで、上記の審級に基づく精神装置としての概念を、様々な情動特性を持つ人物表象に基づく「情動制御システム(情動系神経回路機能網)」として規定し直せば、円三分割構造として修正された第一局所論と、(前意識に属する)情動制御システムとして修正された第二局所論は一致し、刺激は両局所論の中を(解離サイクルと防衛サイクルを用いて)縦横無尽に伝達するので、その意味を理解すれば、すべての精神現象を説明することができる。すでに(このホームページで)何度も紹介しているように、情動制御システムとは動物脳に特徴的な「不快−防衛系」と、人間の脳に固有の「不快−制御系」より構成されている。不快−防衛系では、動因系ニューロンに対して報酬系ニューロンが防衛的に機能するか、それとも嫌悪系ニューロンが防衛的に機能するかという(二者択一の)特徴がある。これに対して、不快−制御系では、動因系ニューロンに対して、報酬系ニューロンが制御的に機能する(第三者的に追加する)という特徴がある。このことは、人間にとって、不快−防衛系は異常心理(病的な心)を発生させ、不快−制御系は正常心理(健康な心)を発生させることを意味している。(詳細は『次世代の精神分析統合理論:意識・言語・人格を持つ人工精神(AM)創発理論』に譲る。)

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言語の発生メカニズム

 今日の言語学の主流である認知言語学は類型論であり、言語の起源や発生、それに言語の習得などについて、十分に説得力ある説明を行なっているとは言い難い。これに対して、(修正した第二局所論、つまり)情動制御システムを用いれば、言語の発生メカニズムを解くことができる。言語は情動制御システムの中の不快−制御系を源として発生したと考えられる。数多くの表象(中でも、情動特性を持つ人物表象)を区別し、順序立てて思いを伝達するために、言語は必須である。不快−制御系では、動因系ニューロンに対して、専ら報酬系ニューロンが制御機能を発揮するので、(動物脳に見られる不快−防衛系を異常心理として排除し、)人間に正常(健康)な心をもたらすことができる。(つまり、言語はその正常で、かつ健康な精神を作るための不快−制御系から発生する。)それゆえ、言語能力を現実検討能力と呼ぶこともできる。(しかし、人間もまた動物なので、動物脳に由来する異常、つまり病的な精神を作り出す不快−防衛系を完全に排除することができず、その結果、それらが混在する今日の我々の精神と言語活動が存在するようになった。)情動制御システムの構築に伴って発生する言語は情動認知言語であり、その中に感情言語や感情関連言語、それに感情潜在言語が含まれる。いわゆる認知言語は感情潜在言語に相応する。この言語の総体を言語分布図として描き出すことが可能であり、情動制御システムを用いれば、必然的に文脈形成も可能になる。(詳細は『次世代の精神分析統合理論:意識・言語・人格を持つ人工精神(AM)創発理論』に譲る。)

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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