日米安保は不公平だというアメリカの不満

 アメリカ人が日本人のために戦っても、日本人はアメリカ人のために戦わないのは不公平であるという、アメリカ合衆国大統領の不満が伝えられた。

 今まで、ほとんど日本人であることを意識しなかった私でも、今回、否が応でも、自分が日本人であるということを、ひどく自覚させられる言葉であった。しかも、その自覚は何とも言い難い不快感を伴っている。おそらく、多くの日本人が私と同じような気持ちを体験したのではなかろうか?ネットのニュース欄を見ても、政治を専門とする複数のジャーナリストが、このタイミングに合わせるようにして、自説を披露している。私は政治にあまり詳しくないので、大統領がどんな取引をしたいのか、よくわからないが、今まで感じたことのない強烈な違和感と不快感を覚えたので、その理由を詮索し、自分が日本人として直面しなければならない問題点があるならば、この際、それをはっきりと自覚し、他の人とも共有したいと考える。

 まず、アメリカ人の日本(あるいは日本人)に対する明確な思いを紹介したい。今からもう三十年にもなるが、私はアメリカに留学し、精神分析の勉強をした。そのときの環境はまさに学園であり、(日本がどこにあるのか知らないというアメリカ人の集まりではなく、むしろ)日本や日本人に対して、いろんな関心を示し、かついろんなことを知っている、いわば学識経験者の集まりの場であった。週末になると、いろんな人達からパーティーに呼ばれ、参加したが、その時、私は決まってひとつの質問をすることにしていた。(いろんなパーティーに参加したので、おそらく十人以上には質問しているだろう。)質問された人は、少々、唐突に感じたかも知れないが、その当時の私にとっては、かなり大切な質問であった。その質問とは「なぜ、アメリカ(アメリカ人)は日本(日本人)を守るのか?」という内容である。驚くべきことは、この質問を受けたアメリカ人のすべてが、ほぼ同じような回答を返してくれたという事実である。その内容であるが、質問をされた多くのアメリカ人が、私の質問の仕方は正しくないと言った。そして、その理由についても話してくれた。それは、「アメリカ人は日本(日本人)を守るために日本にいるのではなく、日本(日本人)からアメリカ(アメリカ人)を守るために日本にいる」という内容であった。「なるほど」と思わせられるような内容であった。つまり、アメリカ(アメリカ人)は日本(日本人)の攻撃から自国を守るために、日本に行って、日本(日本人)をコントロールしているというメッセージが伝えられた。このように伝えられて、私はそれまで何となく「日本はアメリカの属国のようだ」と感じ続けてきた理由を得たような気がした。(この属国という表現に違和感を覚える人がいるかも知れないが、私が長年感じてきている思いを表現しているので、ご容赦願いたい。後ほど、もっと明確な私の考えをお伝えする。)私は専門家ではないので、そのコントロールの仕方がどういうものか、詳しく知らないが、アメリカは自由と民主主義をモットーとする国であり、そういう国からコントロールされ、たとえ属国(アメリカの州ほどの格付けはないが、植民地のようなひどい仕打ちも受けていない国)と見なされても、むしろ安全に守ってもらい、しかも繁栄させてもらっているのだから、さほど不満を感ずることもなかった。

 ところが、そうしたところへ、冒頭で示したようなアメリカ人(アメリカ大統領)の発言があった。これを聞いて、私は思わず「えっ?」と絶句し、しばし呆然となった。それから「これは深刻だ!」と思った。アメリカ(アメリカ人)は、自国を守るために、日本(日本人)をコントロールしている。そのコントロールされて、(様々な領域において)自由を制限されている日本(日本人)に、コントロールしている(主である)アメリカ(アメリカ人)が守れと言っているのである。これは、どう考えても、理不尽ではなかろうか?むろん、アメリカ大統領はそんな大袈裟な問題提起をしているわけではなく、今まさにホルムズ海峡で緊迫した状況が続く中、自分の国の船ぐらい、自分で守れと言いたいのだろうということは、誰もが理解するところである。しかし、実際に(自由を奪われて)コントロールされている方が、自らの意思でそれに対応するとなると、現実にどうしたらよいか?コントロールする代わりに、守ってやるというアメリカの意思表示は、はっきりと我々日本人に伝えられている。だから、どういう場所でどういう風に日本が攻撃されても、それを守るのはアメリカ(アメリカ人)の仕事である。しかし、それが問題だという不満がアメリカ(アメリカ人)に出てくるとすると、それは日本人が自分の意思で自国を守れというメッセージとしても受け止められるので、日本(日本人)は(憲法改正を含めて)根本的に考えなければならないということになってくる。しかし、これはたいへん深刻な問題提起である。もし、多くの日本人が、いま私が話した思いを抱いて、このアメリカ(アメリカ人)の不満に、真剣に答えようとすれば、おそらくアメリカ(アメリカ人)は「そんな真剣に考える必要はない、我々は何らかの形で協力してもらえれば、それでいいのだ」と言うに決まっている。つまり、私でさえ、アメリカ(アメリカ人)の反応が予測できる。そして、日本(日本人)は渋々その提案に従うことになる。おそらく、これはいつものパターンなのであろう。日本(日本人)に不満をぶつけて日本(日本人)を動揺させ、日本(日本人)がその不満に真剣に向き合おうとすると、「我々が守っているじゃないか」と諭され、いつも何らかの都合をつけてきたという歴史が繰り返されているのだろう。はたして、このパターンはいつまで続くのだろうか?おそらく、日本(日本人)が存続する限り、永久に続くのかも知れない。

 それでは、日本(日本人)は、自分達が(日本人として)どのように考え、行なうかという問いを持つことはできるのだろうか?(上記の文脈から)おそらく、アメリカ(アメリカ人)は、我々日本人にそのように問う必要はないと言うかも知れない。しかし、我々日本人は、時々、そのアメリカ(アメリカ人)に翻弄され、ひどく不快な思いにさせられても、自らの意思表示さえすることはできないという現実の中にある。だから、せめて自らの精神衛生のために、一度はこの問題、つまりアメリカ(アメリカ人)との関係について考え、はっきりとした自覚を持っていなければならないと思う。そこで、これから話すことは、我々日本人が原点としなければならない(過去の)ある時点をしっかりと自覚し、そこから我々の歴史を振り返り、これからの我々の思いの土台にすべきであると思う。(なぜならば、その時点こそ、我々が自ら考え、自ら行なうことを止めさせられてしまった時点だからである。)つまり、もし我々がアメリカ(アメリカ人)を守るという意思を持つためには、あまり振り返りたくないはずの歴史を遡って、日本人として吟味すべき内容をテーブルの上に並べなければならない。

 おそらく、アメリカ(アメリカ人)であれば、その原点を日本がハワイを奇襲した時点に置くかも知れない。しかし、日本人であれば、そのようにしないだろう。なぜならば、戦争に奇襲はつきものだからである。奇襲は戦法のひとつであり、決して特別なものではない。日本の戦国時代を生き残った武将は奇襲の達人であったに違いない。だから、事前にそれを見抜いて、逆襲するという戦法も重要であったはずである。それゆえ、我々日本人としては、ハワイの奇襲まで遡る必要はない。我々日本人が遡らなければならない時点は、二つの原爆を落とされて降伏しなければならなかった時点である。我々日本人は、人類歴史上はじめて、大虐殺の犠牲者となった。一瞬のうちに何十万人という人が死んだ。この時点こそ、我々日本人が遡らなければならない原点である。この時点から、我々はアメリカの属国になった。アメリカ(アメリカ人)がモットーとする民主主義は日本にも踏襲され、現在では若干、根付いてきているような印象を受けるが、様々な領域において日本の自由は制限されているので、やはり属国という表現は妥当であろうと思われる。おそらく、この時点を原点にしなければならないという問題意識は、多くの人によって共有されるであろう。むろん、その解釈は千差万別であろうが、とにかく、この時点から、我々日本人は、本来、あるべき姿を(失ってきているだろうから、それを)見つけ出す必要がある。しかし、この時点における我々日本人のあるべき姿を表わす選択肢は決して多様ではない。たった二つしか存在しない。ひとつは、想像を絶するような虐殺を受けたのだから、当然、そのお返しをする。つまり、二つの核爆弾を作り、それをアメリカ(アメリカ人)に向けて発射するという選択肢である。そして、もうひとつは、戦後、アメリカ(アメリカ人)は日本(日本人)だけでは決して成し遂げることができなかった繁栄をもたらしてくれたので、原爆投下の罪は、すでに償われているから、我々日本人は十分にアメリカ人をパートナーとして受け入れ、協力することができるという選択肢である。選択肢はこの二つしかない。ただし、この中から、自分のあるべき姿を選べと言われても、内容が内容だけに、どちらか一方を選ぶ、ためらいは大きかろう。しかも、たとえ日本人が(後者の選択肢を選んで、)あるべき姿を見つけ出しても、それをアメリカ(アメリカ人)は気にいらないと言うかも知れない。そういう可能性もあるので、日本を属国から解放するという保証はどこにもない。私がじかにアメリカ人から聞いた話の内容によれば、アメリカ(アメリカ人)は永久に日本のコントロールを解くことはないだろう。そのような将来が予想される時、アメリカ(アメリカ人)のために、日本(日本人)に戦えというメッセージを送られても、多くの日本人は、それを受け入れることができるだろうか?もしアメリカ(アメリカ人)がさらに強く日本(日本人)にそうしたメッセージを発するならば、二つの原爆を投下された日本人の心の傷は癒えるだろうか?私は、いま私が話した内容を、すべての日本人によく理解してもらいたいと思う。はたして、日本(日本人)のあるべき姿とはどういうものなのか?この問題は、すべての日本人、とりわけ日本の若者が真摯に向かい合うべき課題であり、答えを見つけ出さなければならない課題である。

              新しい心の分析教室:ノート(Ⅳ)

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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