ある種の問題を抱えた精神障害者を、時々「処遇困難例」と言う場合があるが、これは精神科の診断名でもなければ、疾患名でもない。また、ある種の問題と言っても、その中にはいろんなものが入っている。たとえば殺人や傷害などの犯罪を起こした場合は、法的な(刑法上の)問題が生じてくるので、それを「触法精神障害者」という別名で呼ぶ場合が多い。今ここで取り上げるのは、むしろ法に触れない(触れても軽犯罪のレベルに止まる)精神障害者の起こす問題についてである。

  現実に、何十回も入退院を繰り返している患者は、いわゆる「処遇困難例」になりやすい。症状診断的に見れば、アルコールやギャンブル、それに覚醒剤などの物質依存、あるいは脅迫や暴言、それに暴力などの衝動行為、さらには手首切りなどの自傷行為や摂食障害、それに盗癖(窃盗)や性的偏倚(性倒錯)など、周囲を巻き込んで、その対応を困難にさせる場合が多く、疾患形成から見れば、(病的状態)重症人格障害に発生する症状群を持つ患者が、処遇困難例になりやすい傾向がある。

  さらに、診断的な特徴を追加すれば、脆弱系病的状態(統合失調質人格障害、統合失調型人格障害、妄想性人格障害、および受身的攻撃的人格障害)は自宅でひきこもる傾向が強いので、救急外来を訪れることは少ないが、攻撃系病的状態に属するすべての疾患群、つまり、境界性人格障害、演技性人格障害、反社会性人格障害、そして強迫不全性人格障害は、時々、警察の世話になりながら、救急外来を訪れることが多い。

  それでは、誰が処遇困難に思うか?まず、患者の家族が対応に困り、次に、精神病院が困る。家族が困るということは、患者の破壊衝動を抑えることができないからである。また、精神病院が困るというのは、そうした破壊衝動を病棟内に持ち込まれ、他の患者を巻き込んで、その破壊衝動を発散させようとするから、その看護と管理を行なっているスタッフが、その収拾に追われ、それだけでくたばってしまうからである。だから、そうした患者には、ほとぼりが冷めたら、さっさと退院して頂く。つまり、処遇困難例と銘打たれた患者は、家庭にも病院にも適応できず、まるでピンポン球のように、家庭と病院を行ったり来たりしている存在である。

  いわゆる処遇困難例の患者を除けば、精神病院はけっこう平穏である。しかし、短期入院システムの導入によって、その平穏さは次第に切り崩されてきているので、その代りに、認知症の入院受け容れは経営維持にとって必須の条件である。これも時代の要求に合わせた精神病院の生き残り作戦であるが、それと同時に、上記のいわゆる処遇困難例もまた精神病院にとっては貴重な患者になりつつあるという皮肉な現実が生まれようとしている。なぜならば、「さっさと退院」という精神病院側の思いと、短期入院システムとは調和しているからである。だから、そうした患者を数多く入院させている精神病院は、「うちこそ、本当の精神科医療の担い手である」という思いを抱き始めているようだ。

  ところで、もし私が「処遇困難例」を「治療困難例」と呼んだら、精神病院のスタッフはおもしろくないかも知れない。処遇困難例と言うと、(厚生労働省のバックアップもあって)「大変な患者のお世話をしている」というニュアンスが強いが、治療困難例と言うと、(すでに精神病は新薬で治せるという思い込みもあって)自分達の医療のほころびを指摘されている、つまりケチをつけられているような思いにならんとも限らない。しかし、私から見れば、「認知症で維持」「新薬で維持」そして今や「短期入院で維持」という「維持尽くし」のように感じられる。認知症は仕方がないにしても、精神病や病的状態は「治癒」せしめられるべき疾患群である。むろん、精神病院は役に立っていないなどと言うつもりは毛頭ないが、しかし、少なくとも、治すための精神科医療があってもよいという純粋に精神医学的な思いを持ってもらいたいものである。そうしないと、精神科医療は、医療従事者の生活のためだけのものになってしまうような気がしてならない。

 

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