精神現象を(生命現象の範疇に含めるという視点からではなく)社会現象の範疇に含ませることによって、産業精神医学という領域を設けることが可能である。しかし、当サイトにおいては、そうした視点からの議論を積極的に行なわなかった。その理由は、精神現象に関する基本をしっかりと理解すれば、いかなる状況においても、それを応用することが可能であり、それぞれの集団に見合った理解と対策を講ずればよいという、かなり高みの見物的なポジションを維持してきたからである。あくまでも、私の立場は医療側にあり、その対象は患者とそのご家族にあり、企業側にはない。つまり、企業の苦悩を解消する側にはいないのである。しかし、実際に職場で様々な問題が生じ、それをどう解決したらよいか、全く見当もつかないという状況が多発している。そこで、この記事はそうした点で悩んでいる様々な企業の管理職に対して、多少の理解を促し、対策の参考にできるという趣旨で作成した。むろん、そうは言っても、個別的なケースに対する具体的な指示ではない。そうではなく、様々な精神障害を持つ人達の、会社で取りやすい言動について紹介し、その紹介からある程度の目星(診断)をつけることができるようになれば、あとは当サイトの他のところに記載した内容に該当させて理解を深め、対策を講ずることができると考える。

  機能性精神疾患のうち、精神病であるのは統合失調症と躁鬱病である。(「機能性」に対峙する言葉は、「器質性」である。今日における器質性精神疾患の代表は「認知症」である。)統合失調症と躁鬱病の原因は共有されているので、この両疾患の間には様々な移行部分があるが、それを考慮しなくても、だいたい区別することが可能である。統合失調症の特徴は幻聴にあり、それがすべての社会生活の弊害になる。それゆえ、(わけもなく)出勤拒否に陥り、家庭でも自室に閉じこもる傾向が強い。一般健康人とは、その言動が大きく異なるので、違和感を覚えやすく、観察する側の判断が間違うことは少ない。これに対して、躁鬱病は気分変動の激しい精神病である。躁鬱病は鬱病相と躁病相とを繰り返す傾向があるので、その変化に注意すべきである。鬱病相では黙って動かず、仕事もはかどらないので、欠勤(休職)しがちである。それに対して、躁病相は人によってかなり異なっている。ハチャメチャで、明らかに逸脱しているというケースから、何の支障もなく、仕事も人一倍スムーズにこなすというケースまである。特に、知的な仕事に従事している場合は、時に際立った能力を見せることがあるが、対人的にも厳しく、軽蔑的である。しかし、些細なつまずきで、いきなり鬱病相に突入する場合があり、そうした変動から区別がさほど難しい疾患ではない。

  病的状態(重症人格障害)のうち、攻撃系病的状態に属する疾患群は、境界性、演技性、反社会性、強迫不全性人格障害の四疾患群である。それぞれの疾患に関する特徴については、当サイトでのそれぞれの項目に該当する紹介を参考にしてもらいたい。ここでは、企業体が参考にできる特徴について言及するが、これらの疾患群に罹っている人達は、どこか一箇所の会社に長く勤めることは難しい。つまり、転々と職を変えるという特徴がある。その理由は、欲求不満耐性(忍耐力)が低いからである。だから、採用時に注意すべきである。また、会話は滑らかで、対人的には全く支障がないかのように見える。その理由は、他人に悪い印象を与えないために、必死に取り繕う傾向があり、そうした能力も備わっているからである。いわゆる「ぶりっ子」である。そのくせ、第三者同士を不仲にさせる天才的な能力を発揮することがある。たとえば、Aさんに対して、「Bさんは、あなたのことを良く思って(良く言って)いない」と言い、今度はBさんに対して「Aさんは、あなたのことを良く思って(良く言って)いない」と言う。すると、いつの間にか、AさんとBさんは仲が悪くなってしまう。そういう風に持ってくる才能がある。さらに、長袖ばかり着る人は、手首切りを隠しているかも知れないし、「必ず、返すから」と言って、金銭を騙し取る場合があるかも知れない。

  病的状態(重症人格障害)のうち、脆弱系病的状態に属する疾患群は、統合失調質、統合失調型、妄想性、受身的攻撃性人格障害の四疾患群である。それぞれの疾患に関する特徴については、当サイトでのそれぞれの項目に該当する紹介を参考にしてもらいたい。ここでは、企業体が参考にできる特徴について言及するが、いずれの疾患も対人的にひきこもりやすいので、たとえば機械的な流れ作業を好む傾向が強い。その理由は、対人的に「優劣」関係を作りやすいからである。ただし、欲求不満耐性(忍耐力)はあるので、転々と職を変える傾向は少ない。あまりストレスを与えなければ、むしろ、長く会社に留まる人の方が多い。しかし、すぐに緊張して、言動もぎこちないという特徴がある。おそらく、会社での困った人達になりやすい最も可能性の高い疾患群のひとつが、脆弱系病的状態の中の妄想性人格障害であろう。なぜ、この疾患が企業体の苦悩になるか?それは、自分のミスをすべて正当化し、他人のミスをひどく責めるからである。この疾患を持つ人が、もし個人的に何か注意されると、それをすべて自分への悪意と見なし、半永久的に恨み続けるし、もしそれを集団的に行なった場合は、訴訟も辞さないという構えを見せるだろう。だから、対応が厄介である。できれば、攻撃の矛先を企業体以外の所へむけさせればよいが、はたしてうまくいくかどうか、難しいところである。

  防衛状態(軽症人格障害)に属する疾患群は、焦燥性、強迫性、回避性、ヒステリー性、自己愛性、依存性人格障害の六疾患群である。それぞれの疾患に関する特徴については、当サイトでのそれぞれの項目に該当する紹介を参考にしてもらいたい。ここでは、企業体が参考にできる特徴について言及するが、防衛状態に属する疾患群は、病的状態に属する疾患群よりも、企業体の被る迷惑度は少ない。おそらく、問題になるのは、焦燥性人格障害と自己愛性人格障害のふたつではないかと考えられる。焦燥性人格障害を持つ人は、いつもカリカリしていて、時々、罵声を浴びせるので、周囲がピリピリしていなければならないという雰囲気を作り出す。しかし、それでも何かの拍子でご機嫌になり、柔和な一面も見せるので、付き合いにくい人という程度で済ますことができるかも知れない。自己愛性人格障害は、すべての人格障害の中で、最も自己中心性を求める人である。羨望が強く、批判的ではあるが、能力的には優れている人が多い。おそらく、個人的に付き合うには、なかなか苦労はいるが、この手の人は企業体に同一化しやすい傾向が強いので、企業体そのものと対立することは少ないように考える。他に、強迫性人格障害の人は、その完璧主義に他人を巻き込むし、回避性人格障害の人は、いざという時には役に立たないし、ヒステリー性人格障害の人は仮病になりやすいし、依存性人格障害の人は愚痴っぽい。

 

          新しい精神分析療法:精神分析統合理論の臨床体験

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精神分析統合理論は、革命的な精神分析理論である。心の健康と病気を定義付け、諸々の精神現象のメカニズムを解明している。その中でも、精神病である躁うつ病と統合失調症の成因を解明し、治癒をモットーにした根治療法を確立している。それによって、人類に課せられた最も大きな難問が解決されている。また、意識や自我意識の解明、「さとり」への道など、想像を絶する内容が含まれている。さらに、症例研究は比類なき圧巻である。精神医学や心理学の専門家だけではなく、心に関心を抱く知識人の方々にとっても必読書である。

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